翻訳記事

本記事は、Christiaan Verwijsさんによる「In-Depth: What Makes Scrum Teams Effective? (v1.2)」(2021年7月12日公開)の翻訳です。翻訳・公開は、Christiaanさんの許諾を得ています。誤字脱字・誤訳などありましたらぜひご指摘ください。

はじめに

この記事は、【徹底解説】シリーズの一環です。Daniel Russo氏と共著したスクラムチームに関する学術論文の非技術バージョンになります。Daniel氏は、オールボー大学の教授で、経験的ソフトウェア工学を専門としています。私は、組織心理学者であり、調査開発と統計が好きなスクラムの実践者です。なお、私たちの論文は、現在、学術的なピアレビューを受けています。

スクラムチームの効果性

どうすれば、スクラムチームをより効果的にすることができるでしょうか。書籍、ポッドキャスト、ブログ記事、オンラインで見つける資料のほとんどは、この質問に関係しています。「スケーリングフレームワークは、効果性に対してどのような影響を与えるだろうか」、「スプリントゴールはどうだろうか」、「どうすればチームがもっとオーナーシップを持てるようになるのか」、「スクラムマスターやアジャイルコーチが、演習やワークショップを通じて、どのようにこのことを支援することができるだろうか」

この内容のほとんどは、作成者の個人的な経験や意見に基づいています。個人の経験には、非常に価値がありますが、いくつかのデータポイントからすべてのスクラムチームに対する結論を導くのは賢明ではありません。もし、あなたが自分の経験した数十のチームでスプリントゴールから恩恵を受けることを意味しているでしょうか。ステークホルダーの関与についてはどうでしょうか。チームがどの程度、機能横断であるかはどうでしょうか。もし、このどれもが重要ではなく、単に見えていないだけだとしたらどうでしょうか。

私は、常々、このような疑問を科学的なアプローチで解決したらどうなのだろうかと考えています。実際のスクラムチームから多くのデータを収集し、科学的なメソッドを適用して、個人的な好み、直感、独断、既得権益に関係なく、本当に重要なことに答えを出させたらどうでしょうか。

そこで、「Scrum Team Survey(現名称: Columinity)」というオンラインアプリを作成しました。このツールは、スクラムチームが幅の広いアンケートによって自分たちを診断し、回答し終えると、詳しい結果とエビデンスに基づいたフィードバックを受け取ることができるものです。私たちは、これらの匿名データを学術的に利用することができました。そして、Daniel Russo教授と協働で学術論文を執筆し、学術誌に投稿しています。現在、私たちの論文は査読中ですが、掲載前の論文をこちらからダウンロードすることができます*。この記事は、私たちのメソッドと結果を学術的ではない形で説明するための非技術的な手引きになっています。

訳註: 2022年11月22日に査読済みとなっており、こちら で公開されている

Scrum Team Survey の画面ショット

フェーズ1. スクラムチームの効果性を高める理論

私たちの主要な研究課題は、次の通りでした。

効果的なスクラムチームの重要な要因は何であるか。それらはどのように相互に関連しているのか

スクラムのフレームワークはある程度の科学的なインサイトに基づいて構築されていますが、科学論文にはスクラムチームの効果性に関する既存の理論を見つけられませんでした。そこで、私たちは、何を計測し、検証すべきかを知るために、理論を開発する必要があったのです。

5年間にわたって行われた13のケーススタディによる観察データからモデルを開発することを選択しました。ケーススタディは、すべての種類のスクラムチームを網羅しているわけではありませんが、実際のスクラムチームに立脚することで、モデル開発の非常に良い出発点となりました。ケーススタディによって重要な変数をスクラムチームの用語で定義することができました。その逆ではないのです。以下に、中核となる変数を定義しておきます。ケーススタディは、潜在的なパターンについてのインサイトも与えてくれました。例えば、「スクラムチームは、ステークホルダーと密接にコラボレーションすることで、より効果的になるようだ」です。また、「自律性は、非常に多様であり、効果性に影響をあたえるようであること」も観察されました。ケーススタディで観察されたパターンを基に、確立された科学的研究と組み合わせて、以下のようなモデルを開発しました。

ケーススタディと既存文献から構築した理論モデル
ケーススタディと既存文献から構築した理論モデル

灰色の円は、私たちの中核をなす要因を示している。マネジメントの支援を除いたそれぞれの中核をなす要因は、いくつかの低次の指標によって計測可能であり、定義されている。それぞれの要因間の矢印は、期待される効果を表している。次の段階では、このモデルを検証することにある(要因の集合化が私たちの予測に合うか(または合わないか)、予想された効果はデータとして現れるのか)。

5つの中核をなす要因(灰色の円)が、いくつかの狭い低次の要因(白い円)によって計測可能であり、定義され、そのスコアリングにおいて共ににクラスタ化されることを期待しています。つまり、「継続的改善」は、「心理的安全性」や「品質への関心」といった変数で構成されているということです。

ケーススタディでの観察から作成したモデルでは、次のように提案しています。

  • 「チームの効果性」を、「チームがアウトカムの品質に対する期待にどの程度応えているか」という観点で定義した。指標として、「チームの士気」と「ステークホルダーの満足度」を用いた。「ステークホルダーの満足度」は、ステークホルダー(クライアント、顧客、ユーザー)による外部からの視点でチームのアウトカムを評価するものである。それに対して、「チームの士気」は、チームメンバーの内部からの視点で、チームのアウトカムを評価するものである。これは、「チーム診断サーベイ(TDS: Team Diagnotic Survey)」のような他のチーム診断におけるチームの効果性の定義と概念に類似している。
  • 「反応性」をチームがスプリントごとにリリース能力があると定義した。「ステークホルダーへの関心」とは、チーム全体が、ステークホルダーが誰で、どのようなニーズを持っているかをよく理解している度合いを指している。「継続的改善」とは、チームが自分たちの改善に対してオーナーシップを持ち、それが支援されており、安心して行える一般的な風土のことである。「チームの自律性」を、内外の制約から(相対的に)自由であることと定義した。「マネジメントの支援」を、チームがマネジメントから支援されていると感じている度合いと、スクラムでの作業を支援している感じる度合いと定義した。定義についてより深く知りたい読者は、論文でより多くの背景を確認することができる。
  • スクラムチームの効果性は、主にチームのリリース頻度、ステークホルダーとの密接なコラボレーション、チームの自律性、継続的改善を促す環境でのチーム運営の程度、マネジメントの支援によって決まる。
  • チームの自律性、マネジメントの支援、継続的改善の風土は、不可欠な衛生要因(ハイジーンファクター)である。スクラムチームがステークホルダーと密接にコラボレーションし、頻繁にリリースするためには、これらが整っている必要がある。
  • ステークホルダーとのコラボレーション、チームの自律性、継続的改善、マネジメントの支援は、効果性に良いの影響を与えるが、スクラムチームが実際に頻繁にリリースをしないと、この良い効果が薄れてしまう。ある意味、これはゾンビスクラム(スクラムのように見えるが、動くソフトウェアがない状態)と呼ぶものになったようなものである。
  • このモデルで期待される効果は、スクラムチーム全体に一般化することができる

この提案した効果性を「仮説」として形式化し、モデル内で印をつけました(H1〜H6)。スクラムチームの効果性に関する予備的な理論モデルができたので、13のケーススタディよりはるかに大きなデータセットで、より厳密にそれを検証したいと思いました。

フェーズ2. 2,000のスクラムチームによるモデルの検証

この手の研究では、最終的には、モデルを実証したり、反証したりするためのシグナルやパターンをデータから探すことになります。そこで、データセットの大きさが重要になります。すべてのモデルは、現実の世界を単純化したものなので、純粋なランダム性とモデルに含まれなかった要因によって、常に「ノイズ」が存在しています。このノイズによって、実際に存在するパターンを見逃したり、存在しないパターンを見出してしまったりすることがあります。これは、望遠鏡に少し似ています。望遠鏡の開口部が大きければ大きいほど、受け止められる光は多くなり、画像は鮮明になります。小さな望遠鏡では、濁りをぼんやりとした惑星と勘違いしてしまうかもしれませんし、その逆になるかもしれません。したがって、一般的に大きなデータセットの方が好ましいのです。

そのため、確実な主張をするためには、実際のチームからの多くのデータが必要となります。私たちは、Scrum Team Surveyを利用して、1,978のスクラムチームからデータを収集しました。これは多くの光を受け止めることができる非常に大きな開口部を持つ望遠鏡に相当する統計データです。これによって、ノイズと実際のパターンを簡単に区別することができます。統計的な訓練にとっては、このデータセットが、小さな効果(0.05以下)でも100%に近い統計的確実性(GPower)で検出するのに十分な大きさです。

今回の計測は、100問以上のアンケートで構成しました。「心理的安全性」、「リリース頻度」など、それぞれのテーマをそれぞれ2つ以上の質問で計測しました。複数の質問を用いることで、そのトピックについて少し別の角度から見ることができるようになりました。そして、統計的手法(CFAやHTMT)により、その質問が本当に同じものを計測しているのか、別のものを計測しているのかを判断することができます。実際のデータ収集をする前に何度かの試行を実施し、アンケートを改善するためにいくつかの修正を行いました。いくつかの項目を削除し、他の項目を追加しました。また、「リリースの自動化」というトピックは、一貫して計測することが非常に困難であることが判明したため、削除しました。

さらに、高度な統計技術である構造方程式モデリングを適用して、データのパターンを分析しました。これらの技法を簡単に説明するのは難しいのですが、最も重要なポイントは、私たちのモデルが実際のチームで観測されたデータを正確に予測しているかどうかを具体的に検証することができるということです。もし、私たちのモデルが要求される閾値に達するならば、私たちが提案する要因と効果性は、実際のスクラムチームで起こることを本当に適切に記述していると完全に結論づけることができるからです。

そこで、AMOSという専門ソフトウェアにモデルやデータを入力したところ、このような結果が得られました。画像ではよくわからないと思うので、以下に最も重要な発見を書き留めておきます。

AMOS統計モデル
AMOS統計モデル

パスの上の数字はその強さを表している(-1.0〜1.0)。円の中のパーセンテージは、このモデルが説明する現実世界との差異の割合を示している。破線は、私たちが期待したがデータに現れなかった効果性を表している。その他の効果性は0.05で有意であった。サンプルサイズは1,978チームであった。

発見 #1: スクラムチームの効果性は5つの要因で説明できる

今回の最も重要な結論は、私たちのモデルが実際にスクラムチームで起こることを正確に記述していたことです。私たちのモデルの中核をなす要因(「反応性」、「ステークホルダーへの関心」、「チームの自律性」、「継続的改善」、マネジメントの支援」)は、ステークホルダーの満足度の実際の変動の58%、チームの士気の35%を説明できています。100%を期待すると大したことがないように思えるかもしれませんが、社会科学の分野では20%を超えるものは「大きい」とみなされます。100%に近い値を求めるには、現実世界と同じくらい複雑なモデルが必要となります。数千におよぶ非現実的なほどの膨大な変数を用意しなければならないということです。例えば、チームルームにある植物の数は、チームの効果性に微小な影響を与えるかもしれません。あるいは、スクラムマスターとの物理的な距離なども影響を与えるかもしれません。したがって、最終的には、科学では複雑なモデルよりも単純なモデルが好ましいのです。

つまり、これは非常に良い結果なのです。私たちのモデルは、ステークホルダーの満足度とチームの士気のかなりの部分を、私たちが採用した僅かなチームレベルの要因から予測しています。そして、データセットの多様性とサイズから、この結果を他のスクラムチームにも問題なく一般化することができるのです。モデルの予備的バージョンに「組織規模」、「チームの経過期間(年齢)」、「チームサイズ」、「プロダクトの種類(内部または外部)」を含めてみましたが、これらはいずれも、全体的にスクラムチームの効果性に影響を及ぼしませんでした。僅かながら、(良い)影響を及ぼしていると思われる唯一の文脈的要因は、スクラムチームの経験でした(太字は訳者による)。

また、このモデルには、スクラムチームがどれだけ厳格にスクラムを遵守しているか、どのようなプラクティスを用いているかは含めなかったことを注意してください。それでも、より一般的なチームの力学から、かなりの量のスクラムチームの効果性を予測することができました。

実践に向けて

スクラムチームの効果性を高める道筋を診断して、支援したいのであれば、このモデルの5つの要因は非常に良い出発点になります。5つの中核をなす要因のスコアが低いスクラムチームは、スコアが高いチームよりも効果が低いというのは安全な仮説です。また、1つまたは複数の中核をなす要因に投資をすれば、効果性は高まるという仮説も成り立ちます。組織が中核をなす要因に影響を与えるような変化を遂げた場合、効果性もそれに応じて変化すると思われます。

スクラムチームを少なくとも5つの中核をなす要因で診断してみよう(イラスト: Thea Schukken)
スクラムチームを少なくとも5つの中核をなす要因で診断してみよう(イラスト: Thea Schukken)

この調査結果は、マネジメント層を説得しやすくするはずです。スクラムチームをより効果的にしたいのであれば、自律性、継続的改善、ステークホルダーとのコラボレーション、反応性に投資する必要があることは、この結果から明らかなのです。そして、この先で説明するように、チームが置かれている状況によって、これらの要因のいくつかは他の要因にも重要なのです。

私たちは、Scrum Team Surveyを作成し、このモデルの要因についてスクラムチームを診断し、エビデンスに基づく推奨事項を提供します。このサーベイは無料で利用でき、購読者向けには、いくつかの高度なフィーチャーを用意しています。より明確なイメージを得るためにステークホルダーに参加を呼びかけるのもいいでしょう。

スクラムチームをより効果的にしたいのであれば、チームの自律性、継続的改善、ステークホルダーとのコラボレーション、反応性に投資する必要があることが、今回の結果から明らかになった

発見 #2: 一番効果的なスクラムチームは、少なくともスプリントごとにリリースを行なっている

反応性は、このモデルの中心です。これは、スクラムチームがスプリントごとにリリースする能力なのです。私たちは、スクラムチームがより頻繁にリリースする(ことができる)とき、より効果的であることをとても一貫性があるものとして発見しました。実際、このモデルは、「反応性」がゲートキーバー(または「調整役」)として機能することを示唆しています。チームの自律性、継続的改善、マネジメントの支援、そして、ステークホルダーへの関心が効果性に及す良い影響は、スクラムチームが頻繁にリリースできないほど小さくなります。

私たちは、スクラムのフレームワークの経験的なエビデンスを見つけることを目的としていませんでしたが、この発見は、アジャイルソフトウェア開発の基本原則(「Ship it Fast」)にエビデンスを提供するものでした、そしてそれはスクラムフレームワークにとって特にです。

実践に向けて

スクラムの実践者ならば誰でも、何らかの形でリリースをあまりしないスクラムチームと、それによって何が起こったのかを見たことがあるでしょう。Barry OvereemJohannes Schartau、そして私は、私たちの著書『ゾンビスクラムサバイバルガイド: 健全なスクラムへの道』において、これを冗談っぽく「ゾンビスクラム」と呼んでいます。ゾンビスクラムとは、スクラムのように見えるが、ソフトウェアの心拍を備えていないものということです。この比喩は非科学的ではありますが、私たちの研究は、2,000チームから得たエビデンスによって頻繁なリリースの重要性を強調しているのです。

最終的にどんなソフトウェアになるのかプレゼンすることはリリースではない(イラスト: Thea Schukken)
最終的にどんなソフトウェアになるのかプレゼンすることはリリースではない(イラスト: Thea Schukken)

この結果は、リリースを頻繁に行わないスクラムチームは、ステークホルダーへの関心、チームの自律性、継続的改善、マネジメントの支援といった他の要因のスコアに関わらず、リリースを行うチームのように効果的ではないことが分かったのです。スプリントレトロスペクティブがとても素晴らしかったとしても、マネジメントがどれほどに協力的であったとしても、チームがどれほどステークホルダーに関心を寄せていても、ステークホルダーへのリリースが偶発的であれば意味がないことが、このデータから分かります。この調査によって、たとえ困難であったとしても頻繁にリリースすることが早急に必要であることをマネジメント層に納得してもらうことができればと思います。

そのためのガイダンスを提供するために、Barry Overeemと私は、チームがより反応性を高めるための5つのDIYワークショップを開発しました。

スプリントレトロスペクティブがとても素晴らしかったとしても、マネジメントがどれほどに協力的であったとしても、チームがどれほどステークホルダーに関心を寄せていても、ステークホルダーへのリリースが偶発的であれば意味がないことが、このデータから分かる。

発見 #3: プロダクトオーナーシップの共有は、不可欠である

このモデルでは、ステークホルダーへの関心は、反応性と同じコインの裏表のようなものなのです。頻繁にリリースすることは、非常に良いことではありますが、リリースされたものがステークホルダーのニーズに合っていない場合(またはその逆の場合)には、何の恩恵もありません。

私たちは、「ステークホルダーへの関心」を、 ステークホルダーのニーズへの集中、価値のあるゴールの存在、ステークホルダーとのコラボレーション、スプリントレビューの質の組み合わせと定義しました。これは明らかにプロダクトオーナーの役目につながりますが、特にプロダクトオーナーに焦点を当てたわけではありません。また、この要因は、プロダクトオーナーによって進行される(あるいは進行しない)、チーム内の「プロダクトオーナーシップの共有」と考えることもできます。この要因が高いチームは、自分たちの作業がなぜステークホルダーにとって重要なのかを理解し、それに基づいて意思決定することができます。私たちは、調査の中で「ステークホルダー」を「ユーザー、顧客、または、プロダクトに実質的な利害関係を持つ人たち」と定義しました。

このデータセットでは、ステークホルダーへの関心で高いスコアを獲得したスクラムチームは、効果性も大幅に向上していました。ただし、チームが実際に頻繁にリリースできていない場合、この良い効果は弱くなります(上記参照)。

「それでは、次回はステークホルダーを招待するようにします」(イラスト: Thea Schukken)
「それでは、次回はステークホルダーを招待するようにします」(イラスト: Thea Schukken)

実践に向けて

この調査結果の明確な実践に向けての意義は、スクラムチームが実際のステークホルダーと知り合うことに非常に大きな恩恵があるということです。残念ながら、多くのスクラムチームは、ユーザーやステークホルダーに直接アクセスできず、他部門から要求が渡される環境で活動しているのです。

そのため、具体的な6つのDIYワークショップを作りました。インスピレーションを得たい方には良いきっかけになるはずです。

この調査結果の明確な実践に向けての意義は、スクラムチームが実際のステークホルダーと知り合うことに非常に大きな恩恵があるということだ。

発見 #4: チームの自律性と継続的改善は、効果的なスクラムチームのための適切な状況を生む

頻繁にリリースし、ステークホルダーと密接に取り組む能力は、明らかに効果的なスクラムチームの心臓部です。それはまた、実行するのが難しく、通常はスクラムチームが最初から得意なことではありません。そこで私たちは、スクラムチームが育つための適切な環境、すなわり「衛生要因(ハイジーンファクター)」を作り出す2つの要因についても調査をしました。

第一に、継続的に改善を行うチームは、ステークホルダーのニーズにも焦点を当てていることがデータから確認できました。この効果性は、かなりのものでした。この研究では、「継続的改善」をかなり広義に定義し、心理的安全性、品質への関心、スプリントレトロスペクティブの質、学べる環境、学びの共有などを含めています。このデータから見えてくるのは、探究と学びが安全に行われているチームは、ステークホルダーの期待に応えるプロダクトを生み出す傾向が強いということです。

このデータから見えてくるのは、探究と学びが安全に行われているチームは、ステークホルダーの期待に応えるプロダクトを生み出す傾向が強いということだ。

私たちが考えた第二の衛生要因は、チームの自律性です。一般的に、知識労働に高い自律性がもたらす恩恵については、すでにかなりのエビデンスがあります。しかし、多くのスクラムチームは、まだ自律性が最小限の環境で運営されており、作業の仕方、作業の順番、作業の配分を変更させることができないのです。

私たちは、チームの自律性を外的制約からの自由(自己管理)と、内的制約からの自由(機能横断)と定義しました。その結果、チームの自律性は、継続的改善に最も強く寄与し、ステークホルダーのニーズに焦点を当てるチームの能力にあまり寄与しないことがわかりました。

より自律性を経験したチームは、より反応性を高めることができることがわかりました。また、継続的改善の風土にも同様の効果があることがわかりました。このことは、自律性と継続的改善を重視することで、(より)頻繁にリリースできる可能性が高まるという考え方を裏付けしています。また、継続的改善は、ステークホルダーへの関心に良い影響を与えることもわかりました。しかし、チームの自律性がステークホルダーへの関心に与える良い影響については、同様の裏付けを見つけることができませんでした。チームが高いレベルの自律性を経験しても、それによってステークホルダーへの関心がより強化されるとは限りません。私たちは、このことは、私たち自身の自律性の計測方法の結果である可能性があると論文では主張しています。私たちは、外部からの制約からの自由度を計測可能な指標としましたが、チームのプロダクトにおける権限を付帯的に評価したわけではありませんでした。この制約が、チームの作業の仕方を決定する能力とは別の特別な制約があることを提唱しています。このメカニズムを理解するためには、さらなる研究が必要になるでしょう。

実践に向けて

自律的なチームの価値を理解する組織は増えてきていますが、多くの組織はまだそれを「あったらいいな」と考えています。あるいは、責任、作成物、イベントなど、スクラムフレームワークの眼に見える要素に加えて、オプションとして扱っているのです。多くの研究が、高い自律性が知識労働者やチームを一般的により効果的にすることを示していますが、私たちのデータは、自律性がスクラムチームの効果性にどのように貢献するかを具体的に確認しています。それは、スクラムチームがプロセスを改善し、そのオーナーシップを持つ機会を増やすと同時に、プロダクトのオーナーシップを持つ能力を高めるからです。

スクラムチームには、自分たちの作業を管理する能力とチームとして協力する能力の両方において、高い自律性が必要(イラスト: Thea Schukken)
スクラムチームには、自分たちの作業を管理する能力とチームとして協力する能力の両方において、高い自律性が必要(イラスト: Thea Schukken)

組織は、高い自律性を念頭に置いてスクラムチームを設計し、支援することをお勧めします。マネジメントは、自律性を妨げる障害物や制限を取り除き、チームが学び、実験し、改善できる環境を作るのを支援することで、チームを支援することができます。

Barry Overeemと私は、特に継続的改善に投資するために、13のDIYワークショップと実験を作成しました。また、チームの自律性に投資するための19のDIYワークショップも用意しています。

発見 #5: マネジメントは、適切な環境を整える必要がある

マネジメントの支援がスクラムチームの効果性に与える影響とはなんでしょうか。マネージャーがどこでどのように、スクラムチームを支援するかについては多くのことが語られていますが、私たちは特にスクラムチームが認識するマネジメントの支援について調査をしました。私たちのデータから、マネジメントの支援は、チームの自律性、ステークホルダーへの関心、継続的改善に良い影響を与えることが明確にわかりました。チームの自律性に対する効果は、明らかに最も強いです。また、チームの反応性にも良い効果を期待しましたが、それは見られませんでした。

マネジメントがどのようにスクラムチームを支援するかは、今後調査したい研究課題です。

実践に向けて

マネジメントと自律的なチームの関係性については、これまでにも多くの学者が研究してきました。私たちの研究は、既に確率されていることを確認するものでした。もしマネージャーがスクラムチームをより効果的にすることを真剣に考えるならば、マネージャーにとって最善の行動は、チームを積極的に支援することです。スクラムチームは、マネジメントが自分たちの背中を押してくれていると感じられなかったり、なぜスクラムを人選しているのかを理解されていなかったりすると、効果的ではなくなります。

もしマネージャーがスクラムチームをより効果的にすることを真剣に考えるならば、マネージャーにとって最善の行動は、チームに指示を出すことではなく、チームを支援することである。

もし、マネジメントの支援が不足している組織にいるのであれば、この研究は、マネジメントの支援が必要な場所について話し合うきっかけになるかもしれません。また、このモデルの要因は、この会話を最も重要な領域へと導くことができるでしょう。

私たちは、マネジメントを巻き込み、この会話をスタートするための5つのDIYワークショップを作りました。

ここから先の道筋

冒頭で述べたように、この記事で紹介する論文は出版前発表である(訳註: 2022年11月に査読が完了している)。IEEEの学術誌「Transactions on Software Engineering and Methodology」に掲載しています。私たちの論文は、3人の学者からなる匿名のパネルによってすでに一度レビューされており、現在再度レビューを受けています。この委員会は、私たちの方法論、分析、結論をチェックし、科学出版物の確立された品質基準を満たすために、改善または明確化する必要があるものについてのフィードバックを提供してくれます。ほとんどの論文は、正式に出版されるまでに何度かレビューとチェックが繰り返され、1〜2年かかることもあります。私たちは、透明性の精神とこのプロセスがどのように信頼できる知識につながるかを示すために、論文を事前公開しています。

訳註: 2022年11月22日に査読済みとなっており、こちら で公開されている

この論文は、スクラムチームを効果的にするものは何かについて調査するシリーズの最初のものです。Daniel Russoと私は、アジャイルコミュニティとしてより科学的な視点をもたらすとい使命を担っています。他の多くの専門分野と比較して、私たちの分野はまだ科学的研究と強く結びついていません。そして、それらの他の専門分野と同様に、私たちも科学的インサイトに連動した方法で顧客を支援するという倫理的な責任を共有しています。

ここで、Danielと私が追い求めた研究課題をいくつか挙げておきます。

  1. 多様性(性別、職能、文化)は効果性にどのように影響するか
    既存の研究では、強い効果があることが示唆されているが、スクラムチームについては研究されたことがない
  2. チーム内の衝突がチームの効果性に及す影響とは何か
  3. スクラムチームの育成は、どのステージで、どのような介入が最も効果的なのか。
    その開発は一般的にどのように進行しているのか
  4. コロケーションと在宅ワークによる影響とは何か

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まとめ

スクラムチームは、多くの組織にとって心臓部です。残念ながら、スクラムは人気にも関わらず、何が効果的であるかについての学術研究は限られています。私たちは、スクラムチームの設計、支援、診断について、よりエビデンスに基づいた視点を実践者に提供することに大きな価値があると感じています。

私たちは、5年間にわたって行われた13のケーススタディに基づき、スクラムチームの効果性に関する理論を開発しました。そして、世界中の2,000のスクラムチームを含む大規模なデータセットで、このモデルを検証し、確認しました。その結果、一番効果的なチームは、リリース頻度が高く、ステークホルダーのニーズを重視するチームであり、どちらか一方に偏っているわけではないことがわかりました。そのためには、チームの高い自律性、継続的改善の風土、そして、マネジメントの支援が必要です。スクラムチームをより効果的にしたいと考えている組織は、これらの領域に実質的な投資を行うことを推奨します。

この論文のモデルは、今後の研究のための基礎的な枠組みとして機能させることができます。そして、このモデルによってこの分野の他の研究と共に、効果性を明らかに向上させるエビデンスに基づく方法への信頼が高まることを切に願っています。

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この調査に協力する方法が2つあります。1つ目は、無料のScrum Team Surveyにあなたのチームと一緒に参加することです。私たちは、スクラムチームを長期間にわたって追跡調査することに特に関心を持っています。あなたの(匿名かつ集計された)データは、私たちの将来の研究に不可欠なのです。私たちは最近、ホスティングと継続的な開発を行うための収益を得るためにサブスクリプション機能を追加しました。

2つ目は、この研究はThe Liberatorsと私たちの支援者による自己資金で成り立っています。学術研究によくある様な助成金や研究費で運営されているわけではありません。ですから、この取り組みに価値を見出された皆さんは、ぜひご寄付をお願いいたします。patreon.com/liberatorsで支援者になることで私たちを支援していただけます

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サーバントワークス株式会社ならびに、長沢智治は、日本語翻訳を無償で行うことで本取り組みに貢献させていただいています。

本記事の翻訳者:

長沢智治

長沢 智治 – アジャイルストラテジスト

  • サーバントワークス株式会社 代表取締役
  • Agile Kata Pro 認定トレーナー
  • DASA 認定トレーナー

認定トレーナー

DASAプロダクトマネジメント認定トレーナー
DASA DevOpsファンダメンタル認定トレーナー

認定試験合格

Professional Scrum with User Experience
PAL-EBM
Professional Scrum with Kanban
Professional Scrum Product Backlog Management Skills
Professional Scrum Facilitation Skills
Professional Product Discovery and Validation
Agile Kata Foundation
DASA Product Management
DASA DevOps Fundamentals

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

プロフィール