デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されて久しいです。ですが、DXに本腰を入れて取り組んでいる企業はまだまだ少ないという印象を持っています。「いやいや、うちだって取り組んでいるのだから」と反論が聞こえてきそうです。でも、そのDXは本当にDXなのでしょうか?
DXの起源
DXの定義であれこれいうつもりはないのですが、DXには起源があります。
ITの浸透が人々の生活のあらゆる面で、よりよい方向に変化させる
エリック・ストルターマン教授, ウメオ大学, スイス, 2004年
DXの起源は、2004年に提唱されているわけです。他のムーブメントと比べても2000年代前半は、大きな転機であることがわかります:
- 2001年: アジャイルソフトウェア開発宣言(アジャイルマニフェスト)
- 2005年: アジャイル相互依存宣言
- 2009年: DevOps
- 2011年: リーンスタートアップ
2000年代に提唱され、2010年代に実践され、現実のものとなったものがDXだと捉えると腑に落ちるのではないでしょうか。
この辺りは、ファストムーバーと呼ばれるデジタルを主軸とした企業の台頭や、デジタルネイティブな若い人たちを見れば分かる通りです。
多様なDX
そんな中で、DXというとITや、なんでもデジタル化すること、自動化することだと思われる向きもでてきました。ウェブ会議を導入したらDX、紙をデジタル化したらDX、ハンコを廃止したらDX、手作業をRPAで自動したらDXというようにです。世の中には多種多様なDXが広がってきています。それらを「DXと呼ぶべきでない」と否定する気はありません。本質的に推進できるならばどんな言葉でも構わないということもあります。
顧客中心
ここでは、DXによる恩恵を受ける人たちを「顧客」としています。従ってリアルに顧客を指すこともあれば、業務のDXの文脈においては従業員が顧客を指すことになります。
どちらにも言えるのは、DXはプロセスのためのものではなく、顧客のためであるべきだということです。さらにいうならば、顧客体験への恩恵やよき変化が求められます。よりよい方向に変化すべきはデジタル化、IT化ではなく、人々のあらゆる面、すなわち、顧客体験だからです。
デジタル化に着目するのではなく、顧客体験に着目するところからはじめないと、デジタルと言う樹海に迷子になり、彷徨って、飲み込まれてしまいます。
この辺りについては、DXのリーダー的存在であるマイケル・ウェイド氏も「デジタルのためにデジタル化に専心すべきでない」、「戦略や計画だけでなく、ビジョンとアジリティが大事」、「サイロでの変革に閉じない」など要点を述べています。
顧客中心の好例
私が顧客中心のDXの好例としてよく例に挙げるのは切符売り場の変革です。
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- レベル0. 人に頼んで購入する(手配してもらう)
- レベル1. 値段を調べて購入する(380円の切符を買う)
- レベル2. 行先指定で購入する(ここから新宿まで)
- レベル3. SUICAでタッチ(いくらかかすかは知らなくてよい)
顧客としては、目的地に着ければいいとするならば、レベル3がもっとも望ましいわけです。しかしながら、交通システムというものがあり、それを理解していないと目的を達成できないのが、レベル0からレベル2です。運賃を知らなければ切符が買えませんので、運賃を調べるところから顧客が行う(レベル1)と行先を入力したら料金が提示される(レベル2)の間の顧客体験の改善は感動に値するものもありました。実際にこれだけでも、間違いなく目的地までの切符を購入できることや、券売機に並ぶ行列の緩和などの"業務改善"が行われたことでしょう。
それすらも凌駕するSUICAをはじめとしたICカードの登場は、人々の切符体験だけでなく、考え方の根本から変えるものとなりました。
ここで考えていただきたいのはどう実現したか、どうデジタルを活用したか以前に、何を解決したか、何を改善できたかであり、それ以前に顧客に何をもたらしたかであることです。
デジタルのためのデジタル化ではないのです。
長沢 智治
サーバントワークスでは、ソフトウェア開発をはじめとした複雑な業務を改善する支援サービスを実施しております。スポットから中長期まで探究と伴走による支援についてお伝えしたいことがあります。ぜひお気軽にお声がけください。
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