翻訳記事

本記事は、PSTのVenkatesh Rajamaniさんによる「Can you be Agile with fixed-bid Projects?」の翻訳です。翻訳にあたり、Venkateshさんの快諾をいただきました。ご翻訳、誤字脱字を見つけたらフィードバックをお願いします。

はじめに

※本翻訳では、「Fixed-bid Project」を「請負契約プロジェクト」と意訳しています。

いつもあるひとつの質問を受けます。それは、「請負契約プロジェクトでアジャイルは適用できるのでしょうか?」というものです。このときに詳しく聞いてみると彼らは以下のような背景を話をしてくれます。

  • 固定の期日: 新規または変更依頼を定められた期限までに提供しなければならない
  • 固定のスコープ: リリースでは決められたのユーザー機能のセットを提供しなければならない
  • 固定の予算: 超過できない予算が予め決まっている

アジャイルについてはじめに学ぶべきことは、未知のものを確約(コミット)しないことと、漸進的な進行が将来を予測できる唯一の方法であるということです。しかし、現実には、アジャイルソフトウェア開発宣言からの20年以上の間に、アジャイルの文脈、使用の仕方、そして経験からアジャイルソフトウェア開発のアプローチとその実行に関する基本的な帰属錯誤があることを示しているいくつかのエビデンスが得られています。

それは、リーダーシップの問題であり、解決するのが難しい問題である場合があります。しかしながら、この問いかけに対する直接的で明確な答えはないのです。このジレンマを解消するためには、プロジェクトマインドセットとプロダクトマインドセットの初歩的な違いを思い出すことが大切です。

Credits: Scrum.org (Professional Scrum Product Owner 研修のスライド)

アジャイルは文脈に依存するのか

アジャイルは文脈に依存するのかに対して、私の考えでは、その答えは、「はい」でもあり「いいえ」でもあります。たとえチームがアジャイルになっていて、コラボレーションし、より速く価値を提供できたとしても、事前のスコープ決定や、期間やコストを固定してしまうと、変化する市場の状況に適応する機会が減少してしまいます。

このことを説明するために、ビットデータに戻ってみる必要があります。今日の時価総額での最も価値のある企業のトップ10社は、Apple、Microsoft、Saudi Oil、Amazon、Alphabet、Facebook、Tencent Holdings、Tesla、Alibaba、そして、Berkshire Hathawayです。もちろん、このリストは市場によって変動しますが、2011年と比較すると6割の企業が入れ替わっています。2001年と比較してみると、リストに載っているのはこの中では、Microsoft 1社だけなのです。これは、企業がレジリエンス(回復力)を好むことを明確に示しています。特に、RUPT(Rapid, Unpredictable, Paradoxical, and Tangled world; 迅速で、予想できなく、逆説的で、絡み合った世の中)時代には、安定性よりも適応性が重要であり、レジリエンスを維持することが重要になります。

では、請負契約プロジェクトにアジャイルで取り組む方法はあるのか

請負契約は、期間が短く、具体的なビジネスやプロダクトゴールに関連している場合に最も適しています。

ここで、広く用いられているフレームワークのひとつであるスクラムを例にして、請負契約プロジェクトにどのように対応できるかを見ていきましょう。ビジネスには、市場に対する柔軟性が必要ですが、スクラムチームには意味のあることをするための安定性が不可欠です。したがって、大幅な方向転換をスプリントの境界に限定することは、必要な妥協点なのです。同じことを請負契約プロジェクトで遭遇する3つの変数で説明してみることにしましょう。

スケジュール固定

スクラムを用いている場合の契約方法を検討する場合、スプリントを活用することができます。スプリントは、価値を提供するためのタイムボックスのあるイベントです。『スクラムガイド』では、一貫性を持たせるために、1か月以内の固定長のイベントであると記載されています。したがって、各スプリントは、顕著な結果を達成するための一時的な取り組みと考えることができるのです。この定義は、スクラムでのすべてのスプリントに適用されるのです。

予算固定

しかし、スクラムではスプリントでどのように予算編成をすべきかについては決められていません。私の経験では、スプリントで固定予算のプロジェクトを実行するには2つの方法があります。

Source: tryScrum

いくつかのスプリントを、事前に合意した「ゴール」をもった単一のリリースとして予算化することができるでしょう(※訳註: 上図中の「Several Sprints founded as Single Release」のイメージ)。よくみると、「スコープ」という用語を「ゴール」に置き換えています。チームは、このゴールを達成するために、状況に合わせて自由に行動することができるのです。しかし、スコープを交渉し、ゴールを「意識」することで、チームは、本質的なことに集中することができます。私は、石の上に「ゴール」と書けばいいというつもりはありませんが、プロジェクトのゴールはプロダクトゴールと同じような確約(コミットメント)になり得るという思えます。

スコープ固定

従来の組織がアジャイルな仕事の方法に移行するのはチャレンジが必要かもしれません。しかしながら、3つの変数のうち、私は、本質的なことに集中する能力を奪うような、「スコープを事前に固定すること」には賛成できません。

私の経験では、新しい仕事の仕方に移行しようとしている組織では、アジャイルな契約を確立する際に、次のような契約条項を追加することを検討するとよいでしょう。

  • まだ取り組んでいない要求は、同じサイズの別のものに交換することができる
  • アジャイルな環境において、実行する順序を交渉することができる
  • 両者は、価値を見出せなければ契約を解除することができる

CraigとBasは、彼の書籍で、アジャイルな契約を確立する方法を見事に書き上げました。

まとめの考察

つまり、アジャイルソフトウェア開発宣言のひとつを思い出していただきたいのです。

計画に従うことよりも変化への対応を、

アジャイルソフトウェア開発宣言

従来の考え方を打ち破り、ソフトウェア開発のためのアジャイルな契約を確立することは、従来の手法とは根本的に異なり、チャレンジがあることです。アジャイル開発プロジェクトに従来の契約書を用いようとすると、その実行が危うくなり、アジャイルな仕事の仕方の恩恵を受けられなくなる可能性があるのです。さらに、「アジャイル」な組織は、価値駆動のアプローチを決断し、それに集中する方法を識別するのです。これは、アジャイルトランスフォーメーションの最中において非常に重要です。ご存じように、ソフトウェア開発とは、擬似的な確実性を提供する計算ではなく、継続的な検査と適応なのです。今回は私の見解を述べましたが、皆さんの経験談をコメントでお寄せください。

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本記事の翻訳者:

長沢智治

長沢 智治

サーバントワークス株式会社 代表取締役。NOTA Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。

長沢智治の認定資格

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

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