Professional Scrum with Kanban (PSK) 認定資格を取得
Professional Scrum with Kanban

本記事の執筆者である長沢智治は、2021年1月にScrum.org認定のProfessional Scrum with Kanban (PSK) の認定試験に合格しております。

カンバンを活用したスクラム - Scrum with Kanban

Scrum.org では、「Scrum with Kanban」としてスクラムのフレームワークに対して全体的なプロセスの強化とスクラムチームの振る舞いの改善にカンバンのフローの考え方とプラクティスが活用できることを示しています。Scrum.org では、「Professional Scrum with Kanaban」という研修コースと認定も設定している重要な改善要素です。

カンバンの定義

カンバンの定義については、『カンバンガイド』とその関連ドキュメントが日本語翻訳されています。翻訳は、私、長沢智治が担当しました。下記より無料ダウンロードいただけます。

また、Scrum.org では、『The Kanban Guide for Scrum Teams』というガイドを無償提供しています。現時点では、『スクラムガイド』2020年11月版に対応した同ガイドは、英語および日本語を含む各国語(2021年1月版)提供されています。

このガイドによる「カンバン」の定義は以下です:

カンバン(名詞):見える化され、進行中の作業(WIP: Work in Progress)が制限されたプルシステムを使用するプロセスにより、価値の流れを最適化する戦略。

『スクラムチームのためのカンバンガイド』2019年9月版

※ 最新の『The Kanban Guide for Scrum Teams』(2021年1月版)でも変更はありません

すなわち、ここでのカンバンとは、タスクボードなどを称したボードという意味ではなく、プロセスとしての「カンバン」であり、それをスクラムのフレームワークに適用することを指しているのでご注意ください。これは、「スクラム vs. カンバン」を指しているわけでも、煽っているわけでも、その逆でスクラムにカンバンのすべてを取り込もうとしているわけでもないことだと理解しています。

従って、スクラムのフレームワークである以上、『スクラムガイド』(2020年11月版)を置き換えるものでも、内容を軽視するものでも、否定するものでもありません。スクラムのフレームワークにカンバンの考え方とプラクティスを適用することで、スクラムを強化または、拡張するように設計・構成されているのです。

スクラムを実践している現場・チームで、改善したい課題がでてきたときにそれを解決・軽減する手段としてこのガイドやその実践が役に立つということです。ぜひガイドを読んでみてください:

Scrum.org 提供の『The Kanban Guide for Scrum Teams』
詳しく見る
無償ダウンロード

前提

スクラムでのカンバンに活用において前提となる事項がいくつかあります。ここでは本記事の主旨に関わる前提を紹介します。

それは、カンバンのフローは、スクラムのスプリントの枠を超える場合も超えない場合もあるということです。これは自己管理できるスクラムチームが自ら選択し、実践していきます。

例えば、スクラムチームが、スプリント期間中のフローにフォーカスして改善を試みたいならば、スプリント内にフローの活用を限定すればいいわけです。この場合は、フローのオーナーは、開発者になるでしょう。

それに対して、ステークホルダーを含めたより広い範囲でのプロダクトバックログアイテム(PBI)の収集やリファインメント、または、リリースの判断や運用までも含めたいといった場合は、カンバンのフローをそこまで拡張することもできます。例えば、スプリントプランニングに到る前に BPI を READY(準備完了)にしたいがそこに大きな課題があり、スプリントプランニングに十分な PBI を供給できないと言った場合は、フローの前半にリファインメントにより BPI が READY になるように設定していくということです。

後者の場合は、オーナーがスクラムチームとなるでしょう。そして忘れてはならないのは、ステークホルダー(顧客/ユーザーや、組織・マネージャー)がオーナーになることはありません。あくまで自己管理できるスクラムチームが行うものであり、ステークホルダーからの要望や圧力で行うものではないのです。

スクラムイベントでのカンバンの指標の活用

ここでは、スクラムの各イベントで、カンバンによるフローの指標をどのように活かすのかについてみていきます。「Professional Scrum with Kanban」の認定試験の参考記事としても紹介されている「4 Key Flow Metrics and how to use them in Scrum's events」(英語)に詳細が記載されています。また、ここで紹介されている表を翻訳して紹介しています。

スクラムのイベント

スクラムのイベントとは以下の5つになります。

  • スプリントプランニング
  • デイリースクラム
  • スプリントレビュー
  • スプリントレトロスペクティブ
  • スプリント

詳細については、『スクラムガイド』(2020年11月版)をご覧ください。

カンバンのフロー指標

カンバンにおける主要なフローの指標としては、以下があります。

  • サイクルタイム
  • スループット
  • 進行中の作業(WIP)
  • 作業項目の年齢(Work Item Age)

それぞれについては、以下引用しておきます。

・サイクルタイム(Cycle Time): 作業項目が開始してから終了するまでの経過時間
・スループット(Throughput): 単位時間あたりの終了した作業項目の数
・進行中の作業(WIP: Work in Progress): 開始しているが、終了していない作業項目の数。指標としての WIP と、スクラムチームが WIP を制限する方針の違いに注意してほしい。チームは WIP の指標を使い、WIP の削減と流れの改善に向かう進捗の透明性を高める
・作業項目の年齢(Work Item Age): 作業項目が開始してから現在までの経過時間。進行中の作業にのみ適用する

『スクラムチームのためのカンバンガイド』2019年9月版

※ 最新の『The Kanban Guide for Scrum Teams』(2021年1月版)でも変更はありません
※ 順番は、本記事に合わせて変更しました

これらの指標をみていただければわかるように、これらはスクラムのフレームワークでは明示されていないものですが、これらを意識し、測り、活用することで、チームとプロダクトをより強化・改善することが見込めます。

スクラムイベントでの指標の活用

指標 スプリント
プランニング
デイリースクラムスプリント
レビュー
スプリント
レトロスペクティブ
サイクルタイム
スループット
WIP
作業項目の年齢
スクラムイベントでのフローの指標の活用の仕方

正式な解説は、「4 Key Flow Metrics and how to use them in Scrum's events」(英語)にありますのでそちらに譲るとしてここからは、私の解釈で自由に書いていきます。

スプリントプランニング

スプリントプランニングにおいては、そのスプリントでのスプリントゴールと、スプリント内でどれくらいの PBI を選択し、完成できるかが重要になります。従って、指標としてスループットが分かっていればそれはとてもよい検討材料となります。相対的見積もりとベロシティでみているスクラムチームならば、まさにそれがスループットと同じ概念であることもわかります。ただし、カンバンを活用するとこれが実績値として PBI の個数を実時間で測れるようになるのです。

以下を参考記事として挙げておきます:
ベロシティではなくサイクルタイムで計測する
アジャイルメトリクス 〜 良い指標・悪い指標・酷い指標

また、作業項目の年齢を測ることで、始めたけれど終わらない(未完成で時間がかかるもの)の期間の程度と作業項目(≒PBI)の特定ができます。なかなか完成させることができない PBI の特性が見えてくれば改善につながるわけですし、プランニングの際にその匂いを嗅ぎ分けられれば、PBI の決定にも貢献できます。

デイリースクラム

デイリースクラムは、スプリントの計画に対する現在の進行状況の把握であり、日々の計画の調整であるため、今何が起こっているのかを知ることが重要になります。従って進行中の作業(WIP)が最重要な指標ですし、また、作業項目の年齢も始めてからどれくらい経過しているか、完成しないのはどうしてなのかを知る重要な指標です。

ここで注意していただきたいのは、指標は、個々のタスクレベルではなく、PBI のレベルであることです。細かなタスクでみてもよい指標にはならないことが多いです。スクラムでもカンバンでも大事なのは、価値のフローであり、価値が提供できるかどうかです。タスクを完了してもそれで価値に近づくわけではありません(細かくみたら少しずつ近いでいるように見えるでしょうが、他のタスクがポシャったら無価値になる可能性だってあるわけです)。

スプリントレビュー

スプリントレビューでは、インクリメントの価値をステークホルダーとレビューし、次のスプリントでやることを明確にすることが重要になります。従って、インクリメントの他にもスクラムチームとステークホルダー全体のフローの振る舞いについてレビューの対象となります。ここで、カンバンの適用がスプリントの枠を超えている場合は、よりステークホルダーを含めたフローのレビューが行われることとなりますし、「いつまでに何ができるのか」といったリリース計画やロードマップに関連する事項をレビューできます。スプリント内に閉じている場合は、スプリントでどれくらい価値を作り出すことができるのかを明示できることになります。

従って、スループットが重要な指標となり得ます。また、「いつまでに」という観点で、サイクルタイムが、「何が」という観点で WIP が大事な指標となり得ます。

スプリントレトロスペクティブ

スプリントレトロスペクティブでは、プロセスとワークフローの検査と適応が行われるため、特にワークフローの検査が行えることが大切になります。スプリントレトロスペクティブで「完成の定義」を定義し、検査と適応するのと同様に「ワークフロー」を定義し、検査と適応するのです。これが加わると思ってください。ワークフローを改善するには、サイクルタイム、スループット、WIP という関連する指標が密接に関わりますのでこれらが重要な指標となります。

リトルの法則:
サイクルタイムの平均 = WIP の平均 / スループットの平均
これらの指標は、密接に関連しているのです。

現実的に指標を捉え、活かすにはチャートを用いる

現実的に指標を捉え、活かしていくには単に数値を測るだけでは難しいです。指標の現実、指標の傾向を可視化することも忘れないでください。以下のようなチャートを作成し、そこからのインサイト得ることは避けられません。ぜひこれらのチャートの書き方と見方もマスターしておきましょう。

  • 累積フロー図(CFD)
  • サイクルタイム散布図
  • 作業項目の年齢図(Aging Chart)

RSGT2023の講演資料

RSGT2023にて登壇した講演資料では、上記にとても関連したお話をさせていただきました。講演資料ならびに、補足説明、質疑応答を下記にて公開しています。

おすすめ書籍

カンバンの知識全般、特に、WIP制限の設定方法、各種の指標、指標をからインサイトを得るチャートについては、監訳を担当させていただいたこちらの書籍が役に立ちます。

今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント

  • 出版社: 日経BP
  • 著者: Eric Brechner
  • 監訳者: 長沢 智治

ご注意: 本書は、カンバンの書籍であり、スクラム with カンバンの書籍ではありません。スクラムからカンバンへの移行についても掲載されています(ウォーターフォールからカンバンへの移行、ウォーターフォールでのカンバンに利用についても掲載されています)。

本記事の執筆者:

長沢智治

長沢 智治 - アジャイルストラテジスト

サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。

PSPO II - Professional Scrum Product Owner II
PSPO I - Professional Scrum Product Owner I
PSM II - Professional Scrum Master II
PSM I - Professional Scrum Master I
PSD I - Professional Scrum Developer I
PAL-EBM - Professional Agile Leadership - Evidence-Based Management
PAL I - Professional Agile Leadership I
SPS- Scaled Professional Scrum
PSU I - Professional Scrum with User Experience
PSK I - Professional Scrum with Kanban I
PSF - Professional Scrum Facilitation Skills
PSPBM - Professional Scrum Product Backlog Management Skills
認定スクラムマスター
DASA Accredited DevOps Trainer
DASAアンバサダー

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

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