翻訳

この記事は、John Coleman さんの「How to use Evidence-Based Management and Scrum (Part 1): Bridging EBM goals with the Scrum Guide 」を翻訳したものです。翻訳は John さんの許諾をいただいています。誤訳、誤字脱字がありましたら、ご指摘ください。

EBMとスクラム

Scrum.org は、ゴールと実験に重点を置いた EBM (Evidence-Based Management) のプラクティスを開発しました。EBM の「重要価値領域」はもちろん大切ですが、より大切なのは、ゴールとそのゴールを使った組織のさらなる利得を達成する方法なのです。

全3回のシリーズのパート1では、「ゴール」に着目しています。『EBMガイド』に記載されているゴールが『スクラムガイド』にどのように対応しているのか、また実行可能なゴールを設定するための道具や書式を検討します。パート2では、「実験」、パート3では、「計測」に着目します。

日本語でも読めます:
『スクラムガイド』も『EBMガイド』も日本語でも読むことができます。下記より Japanese を選択しダウンロードしてみてください。
スクラムガイド EBMガイド

EBMのゴール

Scrum.org の『エビデンスベースドマネジメントガイド』(EBMガイド)には、以下の要素が含まれています。

  • 戦略的ゴール: 組織が達成したいと考えている重要なものである。このゴールは⼤きく遠く、その道のりには多くの不確実性がある。よって組織は経験主義を⽤いなければならない。戦略的ゴールは、⾮常に⾼い⽬標であり、その道のりは不確実であるため、組織は、以下のような⼀連の実⽤的なターゲットを必要とする。
    • 中間ゴール: 達成することで、戦略的ゴールに向けて組織が進捗していることを⽰すものである。中間ゴールまでの道のりは、まだ不確実なことも多いが、完全にわからないわけではない。
    • 即時戦術ゴール: ひとつのチームまたは複数のチームによるグループが中間ゴールに向けて取り組む重要な短期⽬標である。
    • 開始の状態: 取り組みを開始する時点での戦略的ゴールに対する組織の状態を指す。
    • 現在の状態: 現在時点での戦略的ゴールに対する組織の状態を指す。

EBMのゴールとスクラムのゴール

では、EBMのゴールとスクラムのゴールはどのように結びつくのでしょうか。

まず、この質問を考える上では、いくつかの背景があるのです。

2020年版の『スクラムガイド』では、プロダクトバックログの確約として、プロダクトゴールが追加されました。各作成物に対する確約については「Addition of Commitments to Each Artifact」をご覧ください。また、2020年版『スクラムガイド』での変更点は、「What’s different in the 2020 Scrum Guide?」をご覧ください。

ここでは、2020年版『スクラムガイド』から主要な部分を抜粋して紹介します。

  • プロダクトゴールは、プロダクトの将来の状態を表している。それがスクラムチームの計画のターゲットになる。
  • インクリメントは、プロダクトゴールに向けた具体的な踏み⽯である。
  • プロダクトオーナーは、効果的なプロダクトバックログ管理にも責任を持つ。たとえば、プロダクトゴールを策定し、明⽰的に伝える。
  • スクラムチームは、⼀度にひとつの⽬的(プロダクトゴール)に集中している専⾨家が集まった単位である。
  • スプリントプランニングにおいて、プロダクトオーナーは参加者に対して、最も重要なプロダクトバックログアイテムと、それらとプロダクトゴールとの関連性について話し合う準備ができているかを確認する。
  • スプリントレビューにおいて、スクラムチームは、主要なステークホルダーに作業の結果を提⽰し、プロダクトゴールに対する進捗について話し合う。
  • プロダクトゴールは、スクラムチームの⻑期的な⽬標である。次の⽬標に移る前に、スクラムチームはひとつの⽬標を達成(または放棄)しなければならない。

実践者は、プロダクトゴールがEBMのゴールとどのように対応しているかを理解したいと思うでしょう。このマッピングは厳密なものではなく、文脈によっても変わってくるのです。

SMART

スクラムとEBMのゴールをSMARTの基準のレンズを通してみてみましょう。SMARTとは以下の頭文字をとったものです。

  • Specific: 具体的な
  • Measurable: 計測可能な
  • Achievable: 達成可能な
  • Reality: 現実的な
  • Timeframe: 時間的枠組みがある

『スクラムガイド』のプロダクトゴールは、より早く、より現実的で、より戦術的で、SMARTなものかもしれません。あるいは、より遅く、より理想的で、SMARTから遠く離れたものになるかもしれません。EBMの戦略的ゴールは、実現可能ですが、SMARTの要素を全て含んでいないかもしれません。プロダクトゴールは、EBMの戦略的ゴールや中間ゴールと整合する可能性が高いです。しかしながら、それは戦術的なものであったり、中間ゴールと戦術ゴールの境界線上にあるものであったりもします。

架空の自治体である「タウンビル」を例にして、上記について説明してみましょう。

  • ほぼ不可能なプロダクトビジョン: 道路での歩行者の死傷者を、死傷者の減少を計測することで、ゼロにしたい。
  • 戦略的ゴール: 道路での報告されている死亡者数の減少を計測することで、死亡者をなくし、歩行者の傷害を75%減少させたい。
  • 中間ゴール: 道路での報告されている死傷者数の減少を計測することで、歩行者の死傷者数を半分にしたい。
  • 中間ゴールから戦術ゴール: 道路での歩行者の怪我や死亡の原因をすべて特定する。
  • 戦術ゴール: 制限速度の引き下げや、デジタル式警告標識の設置、照明の増設、標識の改善、問題のある地区での守られた歩行者用通路の設置などを行う。

さらなる文脈として、スクラムとEBMのゴールをFASTの基準でみてみましょう。FASTにおいてのゴールは、頻繁な議論(Frequent discussions)に着目すること、野心的Ambitiously)に設定すること、特定の指標(Specific metrics)を計測すること、そして透明性Transparent)を確保することの頭文字を指します。

ほぼ不可能な完璧なビジョンは、FASTではありません。通常、戦術ゴールはプロダクトゴールのように、組織/顧客/エンドユーザーのアウトカム(成果)/効果に着目したものではないからです。そのため、上記の文脈では以下のものだけがプロダクトゴールの候補となります。

  • 戦略的ゴール: 道路での報告されている死亡者数の減少を計測することで、死亡者をなくし、歩行者の傷害を75%減少させたい。
  • 中間ゴール: 道路での報告されている死傷者数の減少を計測することで、歩行者の死傷者数を半分にしたい。
  • 中間ゴールから戦術ゴール: 道路での歩行者の死傷事故の原因をすべて特定や、デジタル式速度警告標識の設定によって地区のスピード違反が50%減少するかという仮説を検証する。

プロダクトゴールが、戦術的ゴールになる可能性もありますが、プロダクトゴールは、1つなため、可能性は低いでしょう。

EBMでは、複数のゴールの種類があることを考えると、スクラムの観点からは次のようになるでしょう。

  • 戦略的ゴールとしてのプロダクトビジョン
  • 戦略的ゴールまたは、中間ゴールあるいは、中間ゴールから戦術ゴールのいずれかとしてのプロダクトゴール
  • 戦術的ゴールとしてのスプリントゴール

また、次のようになることもあります。

  • 戦略的ゴールまたは、中間ゴールあるいは、中間ゴールから戦術ゴールのいずれかとしてのプロダクトゴール
  • 戦術的ゴールとしてのスプリントゴール

さらに、以下のようになることもあります。

  • 戦略的ゴールまたは中間ゴールとしてのプロダクトゴール
  • 中間ゴールから戦略ゴールとしてのスプリントゴール

プロダクトゴールとの関連としては以下があります。

  • 目的は、第一の関心ごと
  • 時間は、第二の関心ごと(時間が懸念事項である場合であり、スコープ固定の概念は避ける)
  • 時間軸は、有用である

時間軸の有用性

スクラムでは、特定のゴールの時間軸を設定することを明示しておらず、目的が優先されています。しかしながら、時間軸をベンチマークとして参考にする人もいるので、スコープを固定にしなければ、それも一つの手であるとなるでしょう。

次の表は、各種類のゴールに対する合理的な時間軸の例となります。

ほぼ不可能な完璧なビジョン5年以上
戦略的なプロダクトゴール1〜3年
中間のプロダクトゴール3〜6ヶ月
中間から戦術のプロダクトゴール2〜3ヶ月
各ゴールとそれらの期間

プロダクトゴールは(一度に)1つしかないので、1つを選ぶようにしてください。

ゴール設定書式の選択肢

ゴールを設定するには、いくつかの方法があります。

重要なのは、経験主義によってプロダクトゴールやプロダクトビジョンに誤りがないか、戦略的ゴールや中間ゴールに誤りがないかを発見することなのです。

ゴール設定のコツ

ゴール設定のコツを挙げておきます。

  • 解決しようとしている問題は何か?取り組むべき適切な問題であることをどうやって知ることができるか?
  • 提供しようとしているニーズや要望は何か?
  • 成功をどのように計測するかを明確にする
  • 取り組んでいる機会とは何か?なぜ他の機会ではなく、この機会なのか?
  • 顧客リサーチ、対話、データからの観察などとの関連があるか?
  • どのような仮定・仮説を検証する必要があるか?

まとめ

ゴールは、私たちがどのように行動するかに影響しています。スクラムでは、私たちの集中力を高め、スクラムの価値基準や経験主義を手助けしてくれます。

ゴール:

  • プロダクトの検査と適応が可能な方向性と共有された目的を提供している
  • 成果(アウトカム)と成果を重視している
  • 柔軟性を確保している
  • 創造性を育成している
  • スクラムチームを鼓舞している
  • スコープ、アクティビティ、アウトプットは一致しない(ことを考慮している)
  • 必ずしもSMARTではない
  • FASTであるべき

まずは、ゴール指向を向上するためにできる小さなステップを尋ねてみましょう。最初に考えられるステップはなんでしょうか?

要約すると、エビデンスベースドマネジメント(EBM)には、方向性を示すのに役に立つゴールの種類があるのです。EBMは、設定したゴールに誤りがある場合には、(根拠に基づく)経験主義を用いて証明するように導いています。スクラムでもゴールを用いており、EBMのゴールと多少一致しているのです。文脈は重要です。スクラムのプロダクトゴールは、EBMの観点からは、戦略的ゴール、中間ゴール、戦術ゴールと一致するかもしれません。

パート2 では、ゴールに誤りがあるかどうかを発見するための実験指向と根拠に基づく経験主義について説明します。パート3では、EBMの重要価値領域について紹介します。

本記事の翻訳者:

長沢智治

長沢 智治

サーバントワークス株式会社 代表取締役。NOTA Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。

長沢智治の認定資格

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

プロフィール