この記事は、Daria Bagina さんの「Creating A Community Of Practice For Scrum Masters
」を翻訳したものです。翻訳は Daria さんの許諾をいただいています。誤訳、誤字脱字がありましたら、ご指摘ください。
Daria さんの情報発信については、ScrumMastered.com にぜひアクセスしてみてください。
はじめに
正直に言うと、組織内で唯一のスクラムマスターであることは楽しいことではありません!組織の中で自分が唯一のアジャイル担当であると気づくたびに、とても孤独を感じていました。既にその役割を経験していたとしてもそうなのです。だからこそ、周りのサポートがなければ、独りでこの変化を起こそうと試みてもすぐに圧倒されてしまうのです。
それゆえ、スクラムマスターや他のアジャイルのプロフェッショナルのチームがいる組織で働くことは、よりやりがいのある経験になると感じました。そして、この経験は自分たちのプラクティスコミュニティ (CoP, Communities of Practice) を共に編成することで、さらに素晴らしいものになりました。
プラクティスコミュニティ (CoP) とは
CoPとは、関心のある人たちが集まる倶楽部のようなものだと考えてください。しかし、単なる関心のある人ではなく、特定の専門知識やプロフェッショナルなゴールに注力し、同じ役割だったり、同じスキルセットを持つ人だったりを集めるのです。
CoPは、私たちの働き方を理解し、それに共感してくれる同僚と交流を行う手段です。それは、彼らが同じような課題に直面している可能性が高く、新しいアプローチ方法を見つける手助けをしてくれることを意味しています。
しかし、本当の価値は、自分の仕事に関連するリアルなスキルを身につけることにあるのです。
CoPは、単なる集まりではないのです。読書会以上のものです。エキスパートによるプレゼンを見るだけではないのです。プロフェッショナルがナレッジを強化し、新しいスキルを身につけ、困難な状況に対処する方法を見つけるための方法なのです。
なぜプラクティスコミュニティ (CoP) なのか
スクラムは、機能横断的で自己管理型チームによってうまくいきます。つまり、異なるスキルセットを持ち、以前は異なる役割をになっていた人たちで構成されるチームを構築するのです。スクラムチームには、スクラムマスターとプロダクトオーナーのほかに、ソフトウェアエンジニアリングや、テスト、テクニカルライティング、マーケティングなどのエキスパートがいるかもしれません。
チームとして共通のゴールを達成するために協力する一方で、個々のプロフェッショナルとしては、より良い仕事をしたいと思っています。その分野のエキスパートでなければわからないような課題に対して、どのようにアプローチすればいいのかを知りたいのです。そのためには、同じ分野の人たちのサポートが必要なのです。
ソフトウェアエンジニアがマーケティングのニュアンスをすべて理解していると思えません。これらのナレッジやスキルは全く異なるものだからです。
だからこそ、CoPでは、ひとつの分野のエキスパートが集まり、課題を共有し、解決策や改善方法を理解している人たちと一緒に見つけることができるのです。
スクラムマスターは、特定の説明責任やスキル、特性、一連の課題を持つ専門職です。そのため、自身の成長を手助けしてくれるCoPに参加すべきです。
プラクティスコミュニティ (CoP) の進め方
もし、大きな組織で働いていて、複数のスクラムマスターが異なる部門やチームにいるのならば、CoPを作るのは難しくありません。メンバー候補者のリストはすでに持っているからです。
次のステップは、あなたのコミュニティのためのプランをつくることです。
ほとんどのCoPで起こることは、周囲の人たちがCoPに価値を見出していないと言うことです。明確な実行計画がなければ、ミーティングはすぐに「不満のぶつけ合い」になったり、単なる時間の無駄遣いになったりしてしまいます。
もし、グループに何も議題もなく、ただ自分たちの仕事で起こったことを話したり、直面している問題を共有したりするために集まっているとしたら、それは本当の意味でのCoPではありません。機能不全なレトロスペクティブになってしまいます。
全てのCoPの目標は、自分たちの仕事をより良くすることに関連するものでなければなりません。新しいスキルの構築や、新しいナレッジの習得、解決策の発見、新しいプラクティスやツールの学習などです。
スクラムマスターとのCoPを開催する際には、理論よりも実践的な資料を中心として、参加者全員に対して役立つトピックを考えています。ひとりのプレゼンターがすべてのミーティングを盛り上げているというわけではないのです。むしろ、コミュニティのメンバー全員が、他の人にとって価値のあるコンテンツを作ることに貢献し合っているのです。
しかしながら、組織内で唯一のアジャイル担当である場合もあります。これでは社内でCoPを作ることが難しくなります。なぜならば、あなたの仕事を本当の意味で理解している人が他にいないからです。
このような状況では、外部のコミュニティを求めるべきです。スクラムマスターとして長期的に成功するためには、不可欠だと心から信じています。だからこそ「Mastering Scrum Pro」のような機会は、スタート地点として最適なのです。
よきCoPミーティングの一例
よきCoPの方法は一つではありません。しかし、スクラムマスターのためのCoPがどのようなものであるかの一例を紹介していきたいと思います。あなた自身のCoPを作る際には、この簡素な議題を自由に使ってみてください。
- お互いのことを知る
コミュニティが初めて集まる場合は、最初に簡単なアイスブレイクのエクササイズをするとよいでしょう。ラウンドテーブルで全員が自己紹介をしたり、「Draw your day」などの楽しいエクササイズをしてもよいでしょう。 - トピックの紹介をする
例えば、スクラムフレームワークの概要から初めて、レベル設定まで行います。これは何度かやったことがあります。フレームワークを一緒に見るだけですが、各要素がどういう意味を持っているのかや、各要素がどのように関連しているのかを尋ねていきます。私が提供している「Introduction to Scrum」ワークショップの一部でもあるちょっとした楽しいエクササイズです。他のトピックとしては、よきレトロスペクティブのテクニックや、コーチングの紹介、有用なスクラムのプラクティスなどがあります。 - エクササイズかプレゼンテーションをする
トピックについて短いプレゼンテーションを行うのも良いアイデアですが、いくつかのエクササイズでサポートすることも重要です。スクラムフレームワークの概要を説明する際には、空のフレームワーク用のグラフ用紙にすべての要素を記入してみるエクササイズを行うこともできるでしょう。 - Q&A
トピックのディスカバリーを終えるために、特にエキスパートが参加している場合は、簡単なQ&Aセッションを行いましょう。エキスパートがいなかったとしても、グループで質問について話し合う良い機会となります。一緒に考えれば、有益なエイデアがでてくることでしょう。 - 自分の業務に活かす
CoPは、新しいことを学ぶだけでなく、実践的なスキルを身につけることも重要です。学んだことを業務に活かす方法を参加者が考え、プランを作成できるディスカッションやエクササイズを行ってみましょう。全員がアイデアを共有し、それをより具体的にするためにお互いに助け合いましょう。 - 次のミートアップを企画する
毎回、CoPの最後に「Lean Coffee」の短縮版を行い、参加者が次回に検討したい質問やトピックを書き留めます。そして、みんなで投票して、次回のCoPで議論するトピックを決めるのです。
以上です。とても簡素でわかりやすいですが、自由度も高いものになっています。
おわりに
スクラムマスターのためのよきCoPの一員になって、あなたのアジャイルのキャリアにおいて次のステップを踏みたいのであれば、ぜひ Mastering Scrum Pro に参加してみませんか?あなたとお会いし、私の経験を共有し、あなたの役割としての成長に貢献できたら非常に嬉しいです。
偶然にも本記事と同様のことを書籍『スクラム実践者が知るべき97のこと』(2021, オライリージャパン)に寄稿をさせていただきました。寄稿では、CoPについての紹介、CoPは自身の業務に活かすことを前提とすることで、組織にCoPの価値と意義を認識してもらうことについても言及しました。CoPの他にもバディなどについても紹介しました。
今回の記事で言及していることは、アジャイル支援先でもほぼ100%紹介をさせていただき、実践していただいています。よりよくしていく活動では、ひとりひとりの能力や意欲にだけ頼るのではなく、集合知をできるだけライトに、負担なく蓄積していくことが大切です。巨大組織から少数精鋭組織までにCoPを導入した実績がありますので、ご支援が必要でしたらお気軽にお声がけください。
本記事の翻訳者:
長沢 智治 - アジャイルストラテジスト
サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。
『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。