翻訳記事

この記事は、Magdalena Firlit さんの「How to Measure the Success of the Agile Transformation」を翻訳したものです。翻訳は Magdalena さんの許諾をいただいています。誤訳、誤字脱字がありましたら、ご指摘ください。

はじめに

組織は、長きに亘ってアジリティ(俊敏性・機敏性)に取り組んできました。この分野でうまくいったところもあります。またそうでないところもあるのです。では、その結果をどう計測し、成果の恩恵をどう計測したらいいでしょうか。

この疑問は、組織のマネジメントとアジャイルトランスフォーメーションの結果や現在進行中の取り組みついて議論するときに、よく出てくるものです。企業は、アジャイルであることに多くの投資をしていますが、ビジネスアジリティが何を意味しており、何を期待すべきなのかについては、そんなに認識していないことがあります。なぜこうなるのでしょうか。

このような状況に陥るよくある理由は、「なぜアジャイルになりたいのか?」という単純な疑問に対する答えがないことです。次にアジリティとは何なのかを十分に理解していないことが挙げられます。他にももっと多くの理由があることでしょう。ここでは、私が最も頻繁に出会ったものに絞って紹介しています。これらの理由を理解することは、アジャイルトランスフォーメーションの成功を計測するのに役に立ちます。

アジャイルトランスフォーメーションは、それぞれの組織にとって定期的で、継続的なプロセスであるべきです。したがって、私は現実の状況において「アジャイルトランスフォーメーション」という言葉を避けるようにしきました。代わりに用いるのは以下の2つです:

  • 適応させること
  • 市場変化に素早く反応すること

今日、組織のほとんどは常に複雑な環境下に置かれています。そのため、市場の変化をより的確に反映させるために、変更のプロセスが絶え間なく行われることになります(あるいは、絶え間なく行われるべきです)。言葉の問題なのです。この記事でも「アジャイルトランスフォーメーション」という言葉を使いますが。

なぜアジャイルなのか

いったん答えが見つかれば、その変更に対する有意義で価値のあるゴールと計測基準を設定することが難しくなくなります。最後の段落で、アジリティに適応するための漠然とした理由がわかることになります。注意して読んでください。

以下の質問に対して答えてみてください:

  • あなたの組織がアジャイルになりたい理由は何ですか
  • それによって達成すべきことは何ですか

アジャイルトランスフォーメーションの成功を計測する指標の例

「アジャイルトランスフォーメーション」の良い結果を観察するために最も重要なことは何でしょうか。いくつかの指標は、計測、観察、データに基づく意思決定の役に立つかもしれません。組織によってアジャイルを採用する理由は異なるでしょうが、成功の指標には共通するものがあります。1つの指標だけに着目してしまい、いくつかの要素を計測することは罠(トラップ)にハマる可能性があります。そこで、エビデンスベースドマネジメントのフレームワークを用いることを検討してみてください。

エビデンスベースドマネジメントガイドは、日本語にも翻訳されています

まずは、私が関わったいくつかの組織における経験を前向きな事例として紹介します。ここで説明している状況は、より複雑なトランスフォーメーションの一部を抜き出したものに過ぎないことには留意ください。

  • 顧客とユーザーの満足度のギャップを解消することで、彼らの満足度を向上させたい
  • 市場のニーズに迅速に対応する必要がある
  • 収益を上げる必要がある
  • 市場のシェアを拡大したい
  • コストを削減したい

顧客とユーザーの満足度のギャップを解消することで、彼らの満足度を向上させたい

このことは、アジリティに取り組むべき非常に大きな動機になります。この目的は、一度定義されれば計測可能なものであり、顧客指向なものになります。私は、ユーザー中心の計測可能ないくつかの指標といくつかのゴールがチームのエンゲージメントを高め、有益に直接的に影響する可能性があることを観察してきました。私の経験と連動するような調査やレポートもいくつもあります。ゴールと顧客/ユーザーとの関係について書いた別の記事もぜひご覧ください

市場のニーズに迅速に対応する必要がある

この例は非常に優れています。アジリティは、このニーズに対して応えることができます。部分的には、このための成功の指標はほぼ準備できています。この組織がこれまで市場に対してゆっくりと対応してきたとしましょう。市場に対応するのに1年くらいかかるとします。

この組織は、「未実現の価値」(満足度のギャップや、市場でのシェア)と「市場に出すまでの時間」(T2M: Time to Market)の計測から始めました。その結果、小さなインクリメントのリリースをより頻繁に行い、仮説を検証し、トレンドに対して迅速に対応する必要があることがわかりました。

収益を上げる必要がある(組織レベルまたは具体的なプロダクト)

組織がアジリティを検討するのは、利益を増大させるためでもあります。ビジネスアジリティは、いくつかの条件(顧客の満足度、反応性など)の下で、増益を約束するものでもあります。他の要素を考慮せずに、お金がけを見るのは危険かもしれません。これについてはこちらの記事をご覧ください。

絶対的に、収益を計測可能にしなければなりません。企業はそのために存在しているためです。しかしながら、これは顧客の満足や幸せなしではないし得ないものです。

市場のシェアを拡大したい

先ほどと同様に、市場シェアに影響を与える可能性がある他の要因についても検討しましょう。

コストを削減したい(コストを抑えるまたは回避する)

アジャイルトランスフォーメーションにはコストがかかります。現在の非効率なプロセスについてはどうでしょうか。用いている技術についてはどうでしょうか。アジャイルは、あなたの組織のムダを明らかにするかもしれません。もしあなたのトランスフォーメーションのゴールにコスト削減が含まれているならば、その達成のために具体的な行動を取っていることになるのです。時間の経過とともに望ましい傾向として見られるはずです。そうでない場合は、他の計測指標や要因を観察してみてください。行動を修正してみてください。そして再び計測してください。

アジリティによる副次的効果

アジリティを適用することで、次のような計測可能な「副次的効果」が得られます。

  • 価値提供の加速化
  • イノベーション
  • コミュニケーションと共通理解の促進
  • ゴールの達成
  • プロダクト指向 vs. プロジェクト指向の議論(組織構造の変化や簡素化を促す)
  • 組織文化の転換
  • トランザクションマネジメントからアジャイルリーダーシップへ
  • その他

着目すべき指標

最後に、トランスフォーメーションのゴールを反映したいくつかの計測可能な指標を測っていきましょう。多くの組織では、以下のような指標に着目しています。

  • 顧客やユーザーの現在の満足度(アウトカム)
  • 収益
  • 市場でのシェア
  • コスト
  • コスト削減・コスト回避
  • 顧客やユーザーの満足度のギャップ
  • 従業員の満足度(従業員の幸せは顧客の幸せにつながる)
  • 市場に出すまでの時間(ピボットまでの時間も含む)
  • イノベーション

組織のニーズと皆さんの文脈は違いがあるかもしれないことには注意してください。だからこそ、「なぜアジャイルなのか」に正直に答える必要があるのです。

気をつけること

企業のトランスフォーメーションに長年に亘って携わってきていくつかの罠(トラップ)があることに気づきました。もしみなさんの組織が以下をトランスフォーメーションしたいと気が付いたならば、危険を伴います。

  • 安く提供したい
    アジャイルは安く提供できることを保証するものではありません。
  • 人をより上手く制御したい
    実際には、アジャイルは人々に権限を委譲することなのです。
  • スクラムフレームワークは組織のどこにでも適用できる
    スクラムは複雑な問題領域に向いています。組織の全員がスクラムで仕事をする必要はありません。しかし、現在では組織の大半が複雑性の真っ只中にあります。アジリティと経験主義は、このような環境に適しています。
  • アジャイルとスクラムは流行っている
    安易に飛びつかないでください。アジャイルプラクティスをいくつか適用したら上手くいくと考えてアジリティへの取り組みに失敗した組織もみてきました。そうではなく、流行りや競争相手が喧伝することではなく、真にアジリティを理解するのに役立てるものです。
  • トランスフォーメーションの期日を設定している
    どのような変化もトランスフォーメーションも過程であることを忘れないでください。常にアジャイルであり、アジリティを向上させたいと考えているものです。常に何かを実施し、必要に応じてふりかえり、そして適応させています。ゴール達成はここで役に立つかもしれません。継続的改善です。
  • アジャイルトランスフォーメーションは一つの指標で成否を判断できる
    いいえ。状況をよりよく理解するのに役に立つ指標はいくつか存在しているはずです。

辛いこと

もしトランスフォーメーションに苦労しているならば、以下を自問してみてください。

  • 適切な人を巻き込めているだろうか?意思決定者を見逃していないだろうか?
    これは、企業がアジリティに取り組む際に最もよくみられる落とし穴です。変化に対してCレベルや部門長の関与が不可欠です。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
  • どのように振る舞うべきか?上下関係を重視すべきか?
    組織文化が理由かもしれません。注意深くみていく必要がありそうです。
  • 構造やプロセスを伴った変化や実験をしているだろうか?
    アジャイルの適用は、組織構造の変化とプロセスの簡素化を迫ることにつながります。いくつかの役職をコンバートしたり、Trello、Jira、Azure DevOpsなどのツールを導入しただけであったり、プロダクトではなくプロジェクトだけで取り組んでいたりであれば、アジリティのから計測可能な恩恵は得られないでしょう。古い構造は古いままなのです。
  • チームが提供している機能が増えているだろうか?
    実際には、スクラムやアジリティが注力しているのは、単なる機能の提供ではなく、価値の提供なのです。こちらの短い動画をぜひ見てください。

まとめ

取り組みの結果を計測してください。ビジネスのKPIだけではなく、顧客のアウトカムも計測しましょう。トランスフォーメーションをもたらす意味のあるゴールを持つようにしましょう。新しいビジネスチャンスや組織での実験的な取り組みを行いましょう。発見から学んでいきましょう。

アジャイルトランスフォーメーションは過程であることを忘れないでください。終わりを予測しても意味がありません。これは組織レベルでの継続的な改善なのです。この取り組みのためにスケジュールやガンドチャートを作らないでください。意味のあるゴールを設定し、計測し、学び、必要に応じてピボットし、データに基づいて意思決定を行い、実験をして、適応させていきます。これらを繰り返すのです。

この記事はAIではなく、人間であるMagdalena Firlitが執筆しました

本記事の翻訳者:

長沢智治

長沢 智治 - アジャイルストラテジスト

サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。

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認定スクラムマスター
DASA Accredited DevOps Trainer
DASAアンバサダー

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

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