翻訳記事

この記事は、Magdalena Firlit さんの「The Product Goal explained」を翻訳したものです。翻訳は Magdalena さんの許諾をいただいています。誤訳、誤字脱字がありましたら、ご指摘ください。

『スクラムガイド』(2020年版)で「プロダクトゴール」が追加されました。この概念を取り入れた理由は、スプリントゴールよりも長期的なゴールを持つことの重要性を強調するためです。

プロダクトゴールは、プロダクトビジョンを反映したものであり、スプリントとビジョンの橋渡しをするものです。また、スクラムガイドが(2020年に)更新される以前から、多くのプロダクトオーナーがプロダクトゴールを用いていました。プロダクトマネジメントでは、プロダクトゴールの使い方は何年も前から実践の場で観測されてきたと言えるでしょう。

プロダクトゴールは、(組織的なレベルである)戦略的ゴールと前述したようにプロダクトビジョンを反映したものです。プロダクトゴールは、中間ゴールと考えることができます1

ゴール指向な組織とチーム

ゴールという概念は、スクラムにおいて何も目新しいものではありません。組織では長年に渡って、戦略を実現するためのゴールをうまく活用してきました。スクラムのフレームワークは、ゴールの重要性を強調しています。さらに、長年に渡って多くの企業と仕事をしてきた経験からも、組織が一般的にゴールを意識していても、実際には、ゴールを用いていないことに気がつきました。

自己管理できるゴール指向なチームに関する十分な調査結果では以下が共通しています。

  • ゴールで集中
  • ナレッジを統合
  • チームの効果性2

ゴールへの確約(コミットメント)がチームの内発的動機付けとなっています(複数の目標があると、チームに混乱が生じることには注意してください)。

では、なぜ組織においてゴールが省かれ続けているのでしょうか。理由はさまざまでしょう。一般的に、ゴールの設定は難しいことが多いです。さらに計測できるゴールを設定する必要性が加わることで、状況はより煩雑になります。

また、時にはゴールが市場における現実の組織的機会を反映していないこともあります。現在の顧客やユーザーのニーズや市場の変化とは異なるものに注力しているのです。

誤ったゴールを選択したことによる結末

結末を端的に言うと、時間とお金を失うことになります。

私の調査3によると、組織は、戦略的ゴールやプロダクトゴールを変更することを恐れているようです。それは、自分たちが作った目標に対する感情的な愛着と関係があるのかもしれません。世の中とニーズは変化し続けているのに、ゴールは同じままなのです。ゴールは、現在の状況が変化すれば、変更したり、更新したりすることができるものなのです。

戦略的ゴールやプロダクトゴールの設定に自信を持つ方法

経験主義を活かした戦略的ゴールとプロダクトゴールを設定し、達成する!

  • 未実現の価値(UV)
    未実現の価値の領域(EBMの重要価値領域)でゴールを見つける。顧客やユーザーの期待値のギャップとは何か?市場の機会とは何か?4
  • ゴールを計測可能に
    アウトプットではなく、アウトカムに着目する5
  • ケイデンス(リズム)を確立
    どの程度の頻度で進捗を確認すべきか?
  • このケイデンスで計測
    どんな指標を用いれば適切な方向に進むのかを確認できるか?
  • 事実に基づいた検査と適応
    データが揃ったら、何を学んだか?何を変えるべきか?
  • 先行指標と遅行指標を意識
    どの指標が我々のゴールにつながるのか?進捗が見られない場合、指標を変更する必要があるのか?
  • 必要に応じたゴールの適応
    市場の状況(または、組織)が変わったら、ゴールを更新する

適切なゴールの設定

まず、以下を問いかけてみてください。

  • このゴールは、どのように私たちを助けてくれるのか?
  • ゴールが正確かどうか?それはどうすればわかるのか?
  • どうやって指標を計測するか?このゴールにいつ到達するか?どうやって知ることができるのか?

プロダクトゴールの例

私たちは、私たちのプロダクト(研修コース)を改善することで、顧客がより成功し、新しいことを学ぶ意欲が25%以上になるようにしたい。それは以下によって決定するものとする。

  • 研修コースに対する全般的な満足度: 95%
  • より実践的な演習を75%にする
  • 受講者の80%が認定試験に合格する
  • 受講者の100%が研修コースで学んだ知識やプラクティスを活用している(少なくとも1つのことを実践している)

ゴールは、顧客の視点、すなわち顧客の行動における計測可能な変化であり、アウトカム指向でなければなりません。

最終ヒント

  • 恐る必要はありません。アウトカム(顧客の行動の変化や未実現の価値(ギャップや機会)の探索)に着目した計測できるゴールを作るだけです。
  • ビジネス視点と顧客視点を決して失わないように!
  • プロダクトゴールを用いて、危機感を醸成しましょう
  • ゴールに向けた自己管理をできるように
  • (いくつかに分解する必要がある場合)サブゴールの作成をしましょう(自己管理で)
  • ケイデンス(リズム)を確立し、検査と適応しましょう

プロダクトゴールは私のいくつかの研修コースで議論され、実践されています。特に、 Professional Scrum Product Owner AdvancedとPAL-Evidence-Based Management(訳注: PALとはProfessional Agile Leadershipの略)の研修コースが該当します。これらの研修コースについてはこちらをご覧ください。

リファレンス

  1. エビデンスベースドマネジメントガイド(日本語版あり)
  2. Hierarchical leadership versus self-management in teams: Goal orientation diversity as moderator of their relative effectiveness, Goal orientation and supervisory behaviors: impacting SMWT effectiveness, The impacts of goal orientation, terminology effect, and source credibility on communication effectiveness
  3. 過去2年間でおよそ30の組織
  4. エビデンスベースドマネジメントについてさらに学ぶ: 動画と記事一覧(英語), Magdalenaさんの記事の日本語訳, エビデンスベースドマネジメントガイド(日本語版あり)
  5. Joshua Seiden, Outcomes over Output: Why customer behavior is the key metric for business success, April 2019

参考)プロダクトゴールについての資料

本記事の翻訳者がRSGT2022でプロダクトゴールとエビデンスベースドマネジメント(EBM)について講演した資料が本記事の内容と合致しています。ぜひ参考としてご覧ください。

翻訳者ならびにサーバントワークスでは、プロダクトオーナー支援ならびにエビデンスベースドマネジメント導入支援の研修サービスや支援サービスを提供しています。お気軽にご相談ください。

本記事の翻訳者:

長沢智治

長沢 智治 – アジャイルストラテジスト

  • サーバントワークス株式会社 代表取締役
  • Agile Kata Pro 認定トレーナー
  • DASA 認定トレーナー

認定トレーナー

DASAプロダクトマネジメント認定トレーナー
DASA DevOpsファンダメンタル認定トレーナー

認定試験合格

Professional Scrum with User Experience
PAL-EBM
Professional Scrum with Kanban
Professional Scrum Product Backlog Management Skills
Professional Scrum Facilitation Skills
Professional Product Discovery and Validation
Agile Kata Foundation
DASA Product Management
DASA DevOps Fundamentals

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

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