はじめに

DXやアジャイル人材の育成に熱心になっている現場が増えてきています。弊社へのお問い合わせも人材育成と学び直しが多くなっています。しかしながら、人材が育っていく環境づくり(=環境育成)には、そんなに思慮もコストもかけていないことが多いことが気になっていました。人材を育成することはとても大切ですが、果たして人材は一人ひとりへの教育の機会を提供すればよいものでしょうか?私たちは、人材が育つ環境に着目をしてきました。

環境なくして人材は育たないという仮説

どんなに個人に対して研修の機会を増やしても、期待通りには人材が育たないことがあります。また、代表して誰かが研修に参加したところで、その体験会を現場で開催したとしても、研修で得たことを十分に伝達することはとても難しいです。

人材を育てるには研修などの育成機会は重要ですが、それ以上に重要なのは、日々どう過ごしているか、それがどのように業務に、キャリアに活かされているかといった「環境」なのです。環境が整っていないと、人材は育ちません。モチベーションにも影響がでてきます。特にDXやアジャイルにおいては、「問題解決意識」が重要になってきますので、モチベーションの源泉を醸成することは、「仕事だからやるのはあたりまえ」では済まされません。しっかりと培っていく必要があるテーマです。

人 × チーム × 組織

以前に「【図解】改善と変革を推進するならどれから手をつけるか 〜 個人・チーム・組織」 という記事にて解説しましたが、育成では、個人・チーム・組織で考え、育てていくことが重要です。

個人・チーム・組織の育成の落とし穴
個人・チーム・組織の育成の落とし穴

環境育成

では、どのようにして個人とチーム、組織を育てていくのかというと、個人レベルでの育成だけでは限界があります。人に依存し過ぎているからです。

そこで考慮すべきは、「環境」です。DXやアジャイルにおいては、問題に対して自律的に機能する当事者たちが観察に基づいて判断し続ける必要がでてきます。このような人材を個人への教育だけで行うのは至難の業です。とはいえ、チーム単位で濃密な支援を常に行うことも難しい現実があります。標準化すればいいとも言い難いです。なぜならば、前例のないことや、絶えず予測とは異なる変化が起きる状況下で標準化では太刀打ちできないシーンが増えてくるかです。

これらを意識すると以下のようなステージが考えられます。

DXアジャイルにおける環境の成熟ステージ
DX・アジャイルにおける環境の成熟ステージ

よくある考え方としては、最上位に標準化や最適化がありますが、極論でいうと、真逆になることもあります。

しかし勘違いをしないでください。ここで挙げたステージは、この順序で育成していくべきというものでもないのです(※図中の矢印が誤解を生むので補足)。大切なのは、意図を持って自分たちの組織、チーム、そして個人がどのステージにいるのかを判断でき、適切な育成環境にしていくことにあります。例えば、Lv3 だと思っているチームがあったとしても組織から見たら Lv0(定義していませんが、どれにも達していないレベル感)であったりというのはよくあることです。また、Lv2 のチームたちを支援しているつもりであっても、支援体制が不十分なため結局はチームや人に任せているだけということもあります。いずれにせよ、組織・チーム・個人の視点に着目して、育成環境を考えていかないと、どんなに教育機会や支援金を捻出しても人もチームも組織も育たないことは感じていただけるかと思います。

以下、簡潔に各ステージを紹介します:

Lv1. 標準化で均一化できる環境

標準化でき、均一化(もしくは、均質化)できるということは、最適化への正しい道筋のように見受けられます。しかしながら、DXやアジャイルにおいては、変化への適応が求められるため、機敏性(アジリティ)が重要になります。標準化による均一化(もしくは、均質化)は、それ自体が悪ではありませんが、変化への適応としては、最大化できない可能性が高いです。従って、環境育成のステージとしては、レベル1(Lv. 1)です。

標準にできるのは、あくまでリテラシーの面+アルファです。これを「躾(しつけ)」と呼ぶ人もいます。また、この標準化部分が分厚くなればなるほど柔軟性と機敏性が減少していきます。人のモチベーションにもおそらく影響していくことでしょう。

Lv2. 支援をうけて実践できる環境

リソース効率化は大切な考慮点ではありますが、DXやアジャイルにおいては、ビジネスにおいても、プロダクトの開発と運用においても効果性が優先されるべきです。まず成果を出して、継続可能かを判断し、継続可能ならば価値の面でもコストの面でも最適にするように舵を切るべきです。リソースの効率化を考えるならば、その後でも十分ではないでしょうか。より効果性を追求できるチームというのは、一夜にして育つものではありません。ただし、そういう環境に置かれないと机上の空論で育つこともありません。したがってトライ&エラーを繰り返せる、失敗の蓄積から学び、その蓄積の先にある成功を掴む体験をするしかありません。

ただし、それをチームですべて責任を負うのはリスクを過大に背負うことになりかねませんので、支援をするコーチやメンターが重要になります。補助輪をつけてやってみるところからはじめて、自分達の成功のカタを見出し、成果を上げていくことができれば、そのチームと成果(ビジネスやプロダクト)をとても強いものになるでしょう。支援には、チームが自律的に活動できるための環境(土壌)を作っていく面があることも忘れないでください。これこそ、マネジメントが担うべき領域なのですから。

Lv3. 自己管理で実践できる環境

効果性を最大化するためには、支援がなくても自己管理できていることが重要になります。自分たちで判断でき、自分たちで責任を取れる環境があり、外部はそれを支援できることで、価値(ビジネスやプロダクトの成果)を最大化できると言えるでしょう。目指すべきはこのステージです。とはいえ、このステージになるのは一朝一夕ではありませんので、Lv2 の先にある景色だと考えるべきです。マネジメントとしては、環境(土壌)を醸成していくことは引き続き重要な責務ですが、より高いレベルで、ステークホルダーと方針ややり方の同意を得るなどチームに「貢献」することができるはずです。

このステージの先には、他チームを支援するといった Lv2 でのコーチやメンターの役回りであったり、より高いレベルでのアジリティの向上へのチャレンジへ進むという景色が待っているはずです。そこでは、このステージに至るまでに培った経験が活きることになるでしょう。

拠り所はどこにあるのか

DXやアジャイル推進においては、「あらかじめどれだけ予測できるか」、「全体の計画を詰められるか」ではなく、「如何に状況からデータを収集できるか」、「データに対して如何に素早く意思決定し、実行できるか」が重要になります。したがって、これらを実現するために試行し、小さな失敗をしているチーム、組織、個人を批難したり、低評価をしたりすることは建設的ではありません。そこでとしては、フレームワークとして「アジャイルのカタ」と「EBM(エビデンスベースドマネジメント)」を推奨しています。どちらのアプローチも根性論ではなく、科学的な思考に基づくアプローチです。

EBMについては下記をぜひ参考にしてください:

おわりに

サーバントワークスでは、個別のチームの支援だけではなく、組織的な課題に対する改善の推進についてのアドバイスやコーチング、メンタリングを実施しています。ここで紹介したものも実際に実践いただいている一例となります。今回紹介したテーマでディスカッションや支援が必要でしたら、ぜひお気軽にご連絡ください。

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今回は、DXやアジャイルに組織として、チームとして取り組むひとつの推進指針を示してみました。よくある標準化をゴールにしないことで気づきがあることを願っております。