翻訳記事

この記事は、Nichervan Fazelさんの「The Significance of Sprint Goals in Scrum: Benefits, Challenges, and Examples」を翻訳したものです。翻訳はNichervanさんの許諾をいただいています。誤訳、誤字脱字がありましたら、ご指摘ください。

スプリントゴールとは

スクラムガイドでは、スプリントゴールを以下のように定義している:

スプリントゴールはスプリントの唯⼀の⽬的である。スプリントゴールは開発者が確約するものだが、スプリントゴールを達成するために必要となる作業に対しては柔軟性をもたらす。スプリントゴールはまた、⼀貫性と集中を⽣み出し、スクラムチームに⼀致団結した作業を促すものでもある。

スクラムガイド(2020年版)

スプリントゴールが必要な理由

スプリントゴールとは、スプリントの目的を定義する一貫性のあるステートメントのことだ。スクラムチームがスプリント内で達成すべきことの概略を示している。スプリントゴールは、「なぜ(Why)」このスプリントに投資する必要があるのか、スクラムチームとしてスプリントゴールを達成することで得られるかもしれないと考える価値について詳しく説明するものだ。

スプリントゴールが「なぜ」を定義するものであるので、開発者は「なぜ」を用いてスプリントのためにどのプロダクトバックログアイテム(PBI)を選択するかといった「なに(What)」を理解するのに役立つものである。「なぜ」と「なに」を理解した上で、開発者は協働して「どうやって(How)」に同意するのだ。

スプリントゴールがチームにもたらすもの

スプリントゴールはチームに以下をもたらすものである。

  1. 集中と方向性
    スプリントゴールは、チームの取り組みの焦点となり、雑念を最小限に抑える働きを持つ。スプリントの目的を理解し、チームメンバーに一体感を与えるものだ。
  2. ビジネス目標との連動
    スプリントゴールは、スクラムチームとステークホルダーの橋渡しをするものだ。スプリントゴールは、すべてのスプリントが包括的なプロダクトゴールと組織的な戦略に直接貢献することを確実にする。
  3. 適応性
    スクラムは、チームが変化に対応するのを助ける。明確に定義されたスプリントゴールによって、チームはスプリント中に多くのことを学び、変わっていく要件に適応させることができる。
  4. スコープの柔軟性
    スプリント中に、チームがさらに学習し、自分たちが考えていたよりもはるかに多くのことをすることが必要だと気付いたときは、スプリントゴールに影響しないならば、スコープを交渉する柔軟性をチームにもたらす。
  5. 動機づけ
    明確なスプリントゴールを持つことは、チームのモチベーションとエンゲージメントを向上させることにつながる。チームメンバーは自分の貢献が全体像にどのような影響を与えているかを理解でき、オーナーシップと確約(コミットメント)を醸成させる。
  6. 進捗を計測
    明確なゴールがあることで、ゴールに対して計画を立てることができ、チームがゴールへの進捗状況を計測するのにも役にたつ

さらに、スクラムイベントは、検査と適応の機会を提供するものである。スプリントゴールは、これらのスクラムイベントそれぞれに対して目的を与えるものとなる。

  1. スプリントプランニング
    ここで、チームはスプリントゴールに合意し、これを策定する。スプリントゴールによって、開発者はこのスプリントでどのPBIを選択すべきかを理解し、チームがスプリントゴールを達成するためにはどのような作業をするべきかを理解できる。
  2. デイリースクラム
    ここでは、スプリントゴールへの進捗を検査し、より多くのことを学びながらスプリントバックログに適応させる。
  3. スプリントレビュー
    スプリントレビューの目的は、スプリントでのアウトカム(スプリントゴール)を検査し、次に何をすべきかをプロダクトバックログに適応させることである。
  4. スプリントレトロスペクティブ
    スプリントレトロスペクティブの目的は、品質と効果性を高める方法を計画することだ。スプリントゴールを達成するために作業をどのように行ったかを検査することでこれを行っている。

スプリントゴールがないことにより課題と影響

スプリントゴールがないことで以下の課題や影響が生じる。

  1. 焦点の欠如
    スプリントゴールがなければ、チームは方向性を見失い、無数のタスクに巻き込まれ、労力が希薄となり、スプリントのアウトカムに影響を与えることになるかもしれない。
  2. 不明確な優先順位
    チームはタスクの優先順位づけに苦慮し、何を最初に達成すべきかについて混乱する。結果として価値に影響を与える可能性がある。
  3. ステークホルダーとの断絶
    スプリントゴールがないと、スクラムチームとステークホルダーの間に断絶が生じ、検査と適応が難しくなる。
  4. 生産性の低下
    チームは、曖昧さや焦点の欠如によって生産性を低下させる。不完全な作業や劣悪な作業が増えることになる。
  5. 機会損失
    明確なスプリントゴールがなければ、チームは創造的で革新的な機会を逃してしまう可能性がでてくる。
  6. コラボレーションの縮小
    スプリントゴールが共有されないことで、チームメンバー間の効果的な協働が妨げられる。結果、ミスコミュニケーションや誤解が生じる可能性がでてくる。
  7. 自己管理の欠如
    スプリントゴールがないと、チームは集中できず、十分な情報を得た上で意思決定を行い、すべての作業に対してのオーナーシップを持つことが難しくなる。タスクを寄せ集めて取り組むことになってしまいかねない。

スクラムチームがスプリントゴールを作成する際に直面する大きな課題は、スプリントゴールとは「スプリントプランニング中に思いついた目的である」という思い込みに端を発している。実際には、スプリントプランニングイベントが目的について議論される最初の機会となることはまずない。経験上、スプリントプランニング中にスプリントゴールを策定する場合、基本的にはプロダクトバックログリファインメントの一環としてすでに検討された目的を微調整するプロセスなのだ。スプリントプランニングまでは、まだスプリントゴールと呼んでいないだけである。

スプリントプランニング中に、その目的は価値あるものでありながら、スプリントの時間枠内で達成可能なものにさらに洗練される。このことを十分に理解するためには、アイデア、プロダクト、フィーチャーが生み出された原点まで遡る必要があるだろう。チームがワークショップを開き、プロダクトの機能性と顧客にとっての潜在的なメリットを理解する。これらの議論は本質的にフィーチャーをより小さな独立したフィーチャーに分割する方法の探究に取り組んでいることを意味している。これらのフィーチャーは、最終的にはプロダクトゴールやより大まかに考えられた最初のスプリントの目的として現れるかもしれないのだ。

プロダクトバックログのリファインメントは、実現したい内容に基づいて行われる。結果として、チームはすでに実現したい目的を持っていることになるのだ。したがって、スプリントプランニング中にスプリントゴールを作成するプロセスの一環として、スプリントプランニングの議論の中でこのゴールを洗練させていくのだ。

スプリントゴールの例

以下に、スプリントゴールの例を示そう。

  1. 「顧客はそれぞれの金融取り引きについてより多くの情報を詳しく見ることができる」
    このステートメントでは、ゴールに柔軟性を与える詳細が明示されていない。
  2. ユーザーのオンボーディングを向上させる: 「このスプリントの終わりまでに、新規ユーザーの離脱率を20%減少させるために、ユーザーオンボーディングプロセスを強化する」
  3. パフォーマンスを向上させる: 「スプリントの終わりまでに、コードの最適化とデータベースのチューニングによって、アプリケーションのロード時間を15%改善する」
  4. 「バイヤーが当社サービスに対してより低い決済統合手数料でオンライン決済できるようにする」
    このステートメントは、XYZが答えかもしれないが、そうでないかもしれない。これはゴールに対して柔軟性をより反映したものになっている。

まとめ

スプリントゴールは単なる抽象概念ではない。チームの成功を後押しする重要なツールなのだ。チームを一つにまとめ、ビジネスゴールと連動させ、進捗のためのロードマップを提供するものだ。スプリントゴールがないことの課題を影響は、焦点を当て、コラボレーションを改善し、うまくいくアウトカムを達成するというスプリントゴールの意義をより強調してくれている。よく練られたスプリントゴールとは、チームを具体的で意味のある到達点に向かわせ、プロダクト開発における継続的改善とイノベーションの段階を設けることができるものである。

本記事の翻訳者:

長沢智治

長沢 智治 - アジャイルストラテジスト

サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。

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認定スクラムマスター
DASA Accredited DevOps Trainer

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

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