はじめに

スクラムでのプロダクトゴールやスプリントゴール、EBMでの戦略的ゴールと中間ゴールのように「ゴール」を明確にすることが多くあります。ゴールは、関わる人々へ方向性を与え、多くのノイズを排して、「集中」するために必要となります。

ゴールの誤り

まずゴールを設定するにあたっては多くの誤解があります。ここで全てを挙げることは目的ではありませんので、いくつか挙げます。

  • やっていることの正当化のために設定されたゴール
  • 自分たちで達成できないゴール
  • その気になったらすぐに達成できるゴール
  • よくわからないけど、必要そうだから設定したとりあえずのゴール

今までやっていたこと、今やっていることを正当化するためのゴールを設定してしまうことがあります。これは残念ながらゴールではないと言えます。また、自分たちでどんなに頑張っても達成できないゴールではそこに至る創意工夫ができません。反面、その気になったらすぐに達成できるゴールは現在の状態からほぼ何も進歩がないことに他なりません。正当化のためのゴールとすぐに達成できてしまうゴールは似た背景があることが多いです。また、達成に至る創意工夫ができないゴールは、現場を知らない人が勝手に設定してしまうことが多いです。とりあえずのゴールは、中の人も外の人も本腰入れていないからでしょう。そういうゴールは「ゴールがない」と適切に認識して、直ちに本当のゴールを考えてみると良いでしょう。

ゴールを定義する

ゴールを設定するには、関係者で共有認識できるものである必要があります。それは、結局は「売り上げ」であったり、MVVで定義されたどれかにアライン(忖度)したものであったりすることが多いですが、果たしてそれで集中でき、協調できるのでしょうか。

ゴールを定義するには、ゴールに達している状態を描ける必要があります。行き着いた先は、どんな状態であるか、そのときには、ステークホルダーがどんな能力(機能)を獲得して、何に満足していて、どんな恩恵を受けているのか(それによって提供者はどんな恩恵を受けるのか)、そして、その状態を維持するには提供者はどんな能力を持ち合わせていなければならないかを描けるということです。

これを簡単にイメージしやすくすると、『崖の上』をイメージするとよいでしょう。

ゴールのイメージ

山頂にあるのが「ビジョン」だとすると、ゴールとはそこに行くまでの崖の上のように険しい先にある比較的平らなところだと言えるでしょう。このゴールを描いてそこに向かっていくことになります。

例えば、ある崖を登り始めてしまってからゴールを後付けで設定してしまうと、それは、やっていることの正当化または、すぐに達成できるゴールになりがちです。また、とんでもなく先のゴールだけを突如設定されてもどうやって登ればいいのかも検討がつかなくなります。

ゴールに至るまでの創意工夫

ゴールは比較的平らかなところであるとするならば、崖の途中とは、ゴールではないですし、それは手段であるとも言えるでしょう。ここでは目的と手段の話をするつもりはありませんが、ゴールに至る「崖の登り方」というのは、少なくとも一つではないはずです。逆に一つしか方法がないとしたらそれはゴールが間違っているのかもしれません(崖の上ではなく崖の途中にゴールを立てているなど)。

重要なのは、ゴールに致る過程は常に複数の選択肢があるべきだということです。そして一つの方法でうまくいかなければ、他の選択肢を選択する余地が必要です。この判断を現場が行えることではじめて変化への検知と変化への適応につながると考えています。

ゴールは変わるかもしれない

さて、ゴールは一度決めたら変えてはならないものでもありません。ゴールを目指して崖を登っていることで、わからなかったことがわかるようになります。すると、この崖を登る価値があるのかを判断できることがあります。登った先が、そのさらに先のゴールやビジョンにつながっていなかったり、とてつもなく遠いとわかったら、一度崖を降りてでも他のゴールを設定したほうがいいときもあるでしょう。この判断も現場でないと、崖を登っている人でないとできないことでしょう。

アジャイルのカタ

アジャイルのカタは、『トヨタのカタ』として知られる「改善のカタ」と「コーチングのカタ」をコアとするアジャイル宣言とその原則に適応するためのガイダンスです。方向性を決めて、現在の状態を把握し、ターゲットとなる状態(ゴール)に向かう科学的思考に基づくアプローチです。

私が日本語翻訳を担当しました。無料で入手できますのでぜひ参考にしてください。

まとめ

ゴールは「状態」として定義しましょう。いつ、その状態になれるか、その状態とはステークホルダーと現場がどのような状態で、どのような能力を獲得できているだろうか。その状態で得られる恩恵とはなんだろうか。ゴールを1行で表現しようとせず、状態として物語として定義してみませんか。

本記事の執筆者:

長沢智治

長沢 智治 - アジャイルストラテジスト

サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。

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認定スクラムマスター
DASA Accredited DevOps Trainer

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

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