「アジャイルのカタ」をご存知だろうか。Agile Kata として公開されているアジャイル開発やアジャイルな働き方に取り組む上でのゴール設定から習慣化までアジャイルの定着化におけるヒントが詰まっている。
アジャイルのカタの背景
「アジャイルのカタ」は、マイク・ローザー著『トヨタのカタ』で紹介されている「改善のカタ」、「コーチングのカタ」に着想を得ている。
どういうことかというと、トヨタでは文化であり習慣となっている事柄があることがマイクの研究でわかった。それが、先述の「カタ」なのだ。
このカタにより、トヨタは継続的改善(カイゼン)が実践できているとされているのだ。カタは、基本の「動き」であり、それをナレッジワークでいうと基本的な「考え方」だということだ。
この考え方をマイクは、「科学的思考」と述べている。
アジャイルのカタとは、その名の通り、この科学的思考をナレッジワーク、変化が激しい仕事に活かす概念だ。アジャイルはその本質として、「目的を定め、その目的と現状のギャップを捉え、目的を達成するために小さなステップで実験を繰り返していくアプローチ」である。
このアジャイルなアプローチを行うには、チームで取り組むことが重要になる。それは「自己管理」を呼ばれるもので表現されることが多い。なぜならば、従来の指揮命令型(コマンド&コントロール型)での意思決定では、頻度も粒度も追いつかないスピード感だからだ。
ジェック・ウェルチが述べているように、「組織内部の変化が、市場の変化速度についてこれなくなったら、その組織が終焉に近づいている」というように、昨今のビジネス事情、テクノロジー事情は市場の変化に追随できるか、先んじることができるかという域に達しているのだ。
話を戻して、「自己管理」を行うために効果的なアプローチとして、アジャイル実践者は、「スクラム」をはじめとしたフレームワークを活用する。フレームワークは、目的とそのための最小限のセット(役割・責任、イベント、作成物、規律など)を備えたものであり、そこへの集中により、グローバルでの知見も集約されており、たいへん成果を上げている。

なぜアジャイルのカタなのか
しかしながら、フレームワークは誰にでも効果的であり続けるとは限らない。特に、変化に対応すること、アジャイルであることに慣れていない、従来の指揮命令型のマネジメントが根強い場合は、フレームワークを取り入れることも、実践することもままならないこともある。また、フレームワークを実践できたとしても、近視眼になりがちで、目的を忘れフレームワークに準拠することに執着してしまうこともあるのだ。
そこで、「アジャイルのカタ」だ。アジャイルのカタは、フレームワーク(形式)ではなく、メタスキル(習慣)に着目したアジャイルなアプローチだ。
スキルのためのスキルである「メタスキル」であるため、アジャイルなスキルセットを身につけ、定着化する際に共通のパターンとして活用できる。これには、先に紹介した「改善のカタ」が役に立つ。それに、より変化に対応するためのアジャイルなマインドセット、アジャイルコーチングに対しても「科学的思考」のレンズを持ち合わせることで、既知のアジャイルプラクティス、アジャイルフレームワーク、今後生まれてくるプラクティス、フレームワークにも根付かせていく土台を作り上げていくことができるのだ。
アジャイルのカタを自然なものとするために「コーチングのカタ」も役に足るがコーチングのカタは、あくまで補助である。
さて、このアジャイルのカタについては、現在2つのアプローチで日本で、日本語で学ぶ機会がある。それが、認定研修と書籍だ。
現場に役立つからこそのアジャイルのカタ
アジャイルのカタは、作業のやり方を規定するのではなく、チームが共に考え、学ぶ方法を改善するのに役立つものである。
実証できる進捗
武道に根差した「カタ(型・形)」とは、熟達に至るまでの構造化された反復実践のことだ。アジャイルのカタは、この原則を仕事の現場に適用し、新しい習慣を身につけ、共有学習を促し、本当の進歩を推進する実証済みのやり方を提供するものである。
これは、フレームワークや万能なソリューションではない。むしろ、チームが課題に明確に対処し、エビデンスに基づいて意思決定を行い、実験を通じて改善を行うのに役立つ実証済みのパターンなのだ。
業界やチーム構成に問わず、アジャイルのカタは再現性のある結果をもたらす。これにより、人々は意図を持って仕事を行い、自信を持って適応し、一歩ずつ考え方を進化させられる。これは複雑さではなく、よく実践された習慣のシンプルさによる威力なのだ。
熟考する
アジャイルのカタは、スクラムやカンバンのようなプロセスフレームワークではない。役割やフローを定義するものではなく、課題に直面したときの考え方や行動のパターンを刷新するものなのだ。
フレームワークとは構造を提供するものですが、カタは考え方を構築するものである。一貫した実践を通じて、チームは内省、実験、エビデンスに基づく意思決定の習慣を身につける。チームは承認や規範的な役割を必要とせず、自己組織化し、より効果的に協力し合い、目的を持って適応させることを学ぶ。考え方を変えることで、チームはより創造的、意図的になり、共有されたオーナーシップを持って仕事を始められるのだ。
カタは、フレームワークに取って代わるものではない。人々がフレームワークを超えて成長するのを手助けするものだ。
アジャイルのカタの活用
アジャイルのカタは、共通パターン(カタ)であり、変化に対応する考え方を養うものだ。したがって、複雑な世界において実践を通じて習慣を身につけ、アジャイルをより効果的に実践し続ける際に役立てることができる。チームや組織のアジャイルに対する成熟度が如何なる状況であってもすぐに始めることができ、効果を実感し、学習しながら推進することが可能なアプローチなのだ。
- アジャイルやアジリティへの備えとして今すぐ始めるために活用する
- 現在採用しているフレームワークをより強化するために活用する
- フレームワークの「守」を超えて、極めるために活用する
- フレームワークと従来のやり方とのギャップを埋めるために活用する
- 「自分たちはアジャイルなのか」の問いに対して活用する
認定アジャイルのカタPRO研修(Agile Kata Pro)
グローバルで展開している Agile Kata Pro LLC による認定研修と認定資格は、アジャイルのカタを学習するうえで、加速装置となる。
日本では、日本人に講師による認定研修を2025年4月より実施されており、25名程度の認定資格者が誕生している。
アジャイルのカタの現場での実践にも寄与しており、この認定研修は企業内での推奨研修としても採用されはじめている(公開研修だけでなく、一社研修も実施している)。
書籍
そして、2026年9月には、アジャイルのカタの提唱者であるJoe Krebsによる書籍『Agile Kata』の日本語訳版が発売される予定である。
書籍『アジャイルのカタ』では、3部構成にてアジャイルのカタの全容をあらわにしている。
- 第Ⅰ部: カタ
- 第Ⅱ部: アジャイルのカタ
- 第Ⅲ部: 活用ケース
第Ⅰ部でカタとは何かを基礎固めし、第Ⅱ部でアジャイルのカタとして、変化に対応するための習慣とメタスキル、そしてそのために必要となる実践的なプラクティスや価値の計測、コラボレーション、コーチング、リーダーシップを解説している。そして第Ⅲ部では、共通パターンでありメタスキルであるアジャイルのカタを5つのシナリオで適用した際の事例やコツを紹介している。
実は、この構成自体も「認定アジャイルのカタPRO研修」と同じ構成である。
さらにその先へ
アジャイルのカタは、誰もが身につけられる習慣であり、メタスキルである。ひょっとしたら大部分はすでに実践していることだと思えるくらいにシンプルであり、馴染みのあるものだろう。
なぜなら、私がアジャイルのカタを紹介すると、マネジメント層であっても、現場の担当者であっても、その形、考え方に対して異を唱える人は全くいないからだ。
だが、しかし、これが従来のアプローチを前提した文化、習慣、状況と一致していないことも同時に誰もが感じているところでもある。言ってみれば、そのギャップにジレンマを感じているのが大半なのだ。
だからこそ、この誰もが異を唱えないアプローチをビジネスで、現場で実践できるようにすることこそが、今後の成功に直結しうると捉えている。
研修や書籍はそのきっかけやモチベーションにつながるが、実践してこそのものであることは忘れてはならない。
個人的には、仕事としてアジャイルのカタを実践する現場やマネジメント層を支え続けていきたいと改めて表明しておくが、実践するのは私ではない。
組織、チーム、個人がそれぞれの『成功』にたどり着く、近づいていると実験できるこのアプローチを実践してくれるために働きかけを継続していきたい。
本記事の執筆者:

長沢 智治 - アジャイルストラテジスト
- サーバントワークス株式会社 代表取締役
- プロフェッショナルスクラムトレーナー(PST) 《日本人初》
- Agile Kata Pro 認定トレーナー《日本人初》
- DASA 認定トレーナー(プロダクトマネジメント、DevOps)
認定トレーナー資格




『アジャイルのカタ』『EBM実践ガイド』「プロフェッショナルアジャイルリーダー』『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など翻訳・監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。
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