組織のヒエラリキー

組織構造のヒエラルキーから、どうしても上位のマネージャには情報と権限が集まってきます。その情報を持っていることが優位に立てるという側面も出てきてしまいます。その状況下で、マネージャから見ると「どうして部下は積極的に意見や議論をしないのだろうか?」と思ったら、まずは、自らが情報を止めていないか、適切な情報量を提供できているのか、逆に、部下からの情報や提案を受け入れているかをふりかえるとよいとよく言われています。人間ですから、どうしてもすべてに行き届く完璧なマネージャも部下もいません。だからこそふりかえり、改善をすることが大切になりますし、それが人間だからこそできることでもあります。

情報の流通

この情報流通が滞っていると、思考停止に陥りがちになります。社員個人の思考停止もさることながら、組織としての思考停止になります。たとえば、過去同じやり方でやっていた実績があるから、だれも傷つきたくないし、リスクもない(リスクというより、責任転嫁)ので、それをやり続けるなどがその例になるかと思います。双方向で言えますが、悪い知らせを伝えない状況では、過去の実績は王道化します。本当の意味での王道かどうかの判断以前に選択肢がない状況に陥るということですね。

これではイノベーションもカイゼンも起こす機会は減ってしまいます。芽を摘んでしまいます。

上司は特にですが、情報を流通させる能力、スキルが問われることになります。同時に部下からの情報を受け入れる環境を築く能力、スキルも問われます。部下も、上司が持っている情報をうまく引き出す能力、スキルが求められますし、上司が自分(部下)が提供する情報に価値があるものであることを表現するため、上司の関心ごとで情報提供する能力、スキルも求められます。

情報のオープン化

書くのは簡単ですが、実践し、磨いていくのは結構大変です。なので、できるかぎりの情報をオープンにすることが近道になってきます。ただし前提があります。たとえば、個人の責任にしないいわゆる「問題 vs. わたしたち」になる土壌があること、悪い知らせをすると罪に問われるような環境はよろしくないということです。同時に良い知らせに対してレスをしない、無関心というのも同じくらいよろしくないことになります。情報をオープンにするということは、信頼関係が成立していることも大切な前提条件となります。信頼関係が成立しているということは、適切な権限の委譲ができていることでもあります。そして持っている情報を整理できる能力または環境や仕組みがあることも前提になってくるでしょう。

上司部下ではなく、チームとして課題やビジネスに取り組む姿勢が大切だということです。それがあって初めて提案ができるし、議論もできます。間違っても情報をもっていることが権力の証になってしまうようなことは避けるべきです。情報をもっていることはそれくらいの強烈な武器になりますし、間違いなく優位に立てます。その情報を小出しにすることで、あたかも適切なアドバイスをしているような錯覚に陥ることもあります。後出しジャンケンですね。

こういう情報流通の環境が整ってくると今度は情報の交通整理ができるようになってきます。定期的に情報を調整して、情報に基づく対応に優先順位をつけることもできるようになってきます。対応にも、チームとして責任をもって実行を行うことができるようになってくるでしょう。

ここまで我慢強く読んでくださった方は、ピンと来ていると思いますが、ここで書いたことは、スクラムのフレームワークが見事に当てはまることがわかります。スクラムについて詳しく触れることはここではしませんが、仕事術としてのフレームワークとしてもスクラムが非常に優れたものの一つであることがわかります。出所から推察すると当然といえば当然なのかもしれませんが。

これからのマネージメントとは、チームの自律を促進し、権限を委譲し、それをサポートすることにあると実感しています。

因みに、情報は疑ってみるべしというのもあります。その情報が必ずしも正しいとは限らないということです。情報はコンテキスト、受け取り手の状況によってもその精度や正しさ、鮮度は変わってきます。ということで、このエントリーもまずは疑ってかかってみてください。

本記事の執筆者:

長沢智治

長沢 智治 - アジャイルストラテジスト

サーバントワークス株式会社 代表取締役。Helpfeel Inc. アドバイザリーボード。DASA アンバサダー/認定トレーナー。

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認定スクラムマスター
DASA Accredited DevOps Trainer
DASAアンバサダー

『More Effective Agile』、『Adaptive Code』、『今すぐ実践!カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』、『アジャイルソフトウェアエンジアリング』など監訳書多数。『Keynoteで魅せる「伝わる」プレゼンテーションテクニック』著者。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2017, DevOpsDays Tokyo 2017, Developers Summit 2013 summer 基調講演。スクー講師。

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